【就活の闇】「億単位の違約金」ちらつかせ内定辞退を阻止…就職エージェントによる「オワハラ問題」、就活生からは「エージェントは胡散臭い」の声も
【就活の闇】「億単位の違約金」ちらつかせ内定辞退を阻止…就職エージェントによる「オワハラ問題」、就活生からは「エージェントは胡散臭い」の声も

3月下旬、中央大学キャリアセンター(文系)がXに投稿した内容が波紋を広げている。「【重要】主に27卒の学生へ  就職エージェントによる内定承諾の強要(オワハラ)および不当な金銭請求に関する注意喚起」とするその文書では、数名の学生から悪質な「オワハラ(就職活動終われハラスメント)」の報告が入っていることを伝えている。

 

内定辞退を申し出た学生に対し、「選考にかかった多大なコストを請求する」と脅しをかける。知識も経験も乏しい若者の心理的な弱みに付け込み、将来を人質に取るような悪質な「オワハラ」の手口は、ここまで過激化している。

「我々も聞いたことがないような会社が山ほどある」

昨今の就職活動では、学生が「就職(就活)エージェント」を使うのが当たり前になっている。

就職エージェントとは、「プロのキャリアアドバイザー」が学生の就職活動をマンツーマンで支援するサービスで、学生は無料で利用できることがほとんどだ。

社会人の転職エージェントと同じく、採用した企業から手数料をもらうビジネスモデルだ。ゆえに、一部のエージェントは内定辞退しようとする学生に対し、悪質な引き止め行為をすることがあるという。

中央大学の松村祐明キャリア教育・就職支援担当副部長によれば、辞退の際に違約金を請求されたり、内定承諾書に億を超える極度額の保証人を求める例もあったという。

「ある1社では『億単位』の違約金の額が書かれていたケースもありました。選考にコストがかかっていると違約金をチラつかせ、内定辞退の際にも損害金を請求すると脅して引き止める。

その学生は親御さんと共におかしいと気づいてサインせずに相談に来てくれましたが、実際には請求できないにしても、エージェントが平気でそのようなことを言うのが実態です」

中央大学は3月17日、公式ホームページにて「就職エージェント等の利用に関する注意喚起」という異例のメッセージを公表した。松村キャリア教育・就職支援担当副部長は今回の注意喚起に踏み切った背景をこう語る。

「現場の我々からしても決して他人事ではありません。ちょうど今、3年生が本格的な就職活動をスタートする時期ですが、最近は就職エージェント絡みの相談が本当に立て続けに寄せられています。

以前から断続的に相談はありましたが、今回は特に悪質なケースが目立ったので、改めて学生たちに強く注意を促すことにしたんです」(同前)

かつての就活は大手情報サイトを通じた自走型が主流だったが、この10年で景色は一変した。

「一番の問題は、我々が把握しているマイナビやリクナビといった大手就職情報サイトとは全く別のところで、学生が『大学の知らないエージェント』と接点を持ってしまっている点です。

大手エージェントなら営業担当者が大学に来ることもあり、我々も内容を把握した上で学生に紹介できますが、今はそうじゃないルートが主流になりつつあります。

しかも、学生が本格的に就活を始める前の、いわば『早期化のさらに前』の段階で接触してくるんです。まだ知識も経験もない学生が狙われるから、当然トラブルも起きやすくなります」(同前)

そのアプローチは驚くほど早く、1年生や2年生のうちからアプローチを受けるのは普通だという。

「首都圏の駅貼りポスターにQRコードがあれば、学生は抵抗なく読み込んで登録してしまいますからね。1年生でも簡単にエージェントに登録してしまう。もはや、エージェントを全く使わずに就活する学生のほうが少数派ですよ。

インターン前にプロのコーディネーターからフィードバックをもらえるというメリットがあれば、早く動こうとする学生ほど飛びついてしまう。

特に首都圏はエージェント産業が活発です。大資本がなくても参入できるため、我々も聞いたことがないような会社が山ほどあります。その中には、強引な手法で学生を引き止める会社や担当者が紛れ込んでいるんです」(同前)

2021年内閣府調査では11.6%の学生が「オワハラを受けた」と回答

就活の景色はコロナ禍前後で一変し、転職エージェントの手法が新卒市場にも一気に入り込んできた印象だという。

「体感では、学生の半数以上が何らかのエージェントに登録しているはずです。

面談に来る子の多くが『エージェントを使っている』と言いますから。

ES(エントリーシート)添削や面接対策を早くから受けられるのは魅力ですが、その分、企業の実態や雇用条件を十分知らないまま話が進んでしまう危うさがあります。

2年生の3月から使い始め、右も左も分からないうちに囲い込まれてしまうんです。引き止めも執拗ですよ。

辞退しようとしても『もう一度話そう』と何度も電話が来る、面談を迫られる。学生が断っても止まらない。他大学も警告を出していることからも、全国的にこうしたケースは急増していると感じます」(同前)

利用者である学生側も、決してエージェントを全面的に信頼しているわけではない。来年度に卒業を控えた都内の大学3年生は、次のように実態を語る。

「意識が高い子は、大学1年生の終わりの頃から先輩のツテとかをたどって、就職エージェントと交流を持ち、大学2年生の秋から冬にかけて早期選考またはインターンの獲得のため奔走しています。

例えば面談対策やESの添削などですね。基本、学生にお金がかからない場合が多いです。自分たちでインターンや面接応募などはするものの、就職エージェント頼りの人は確かに一定数います。

ただ、薄っぺらいというか胡散臭いというか、良いイメージは正直持ってはいないです。うまい具合に学生を言いくるめて、自分たちが就職させたいところに落ち着かせている印象を持っています」

さらに、就職エージェントのみならず、企業によるオワハラも深刻だ。

「オワハラ(就職活動終われハラスメント)」を巡っては、2023年4月に政府が「就職をしたいという学生の弱みに付け込んだ、学生の職業選択の自由を妨げる行為」であると公式に定義した。

これを受け、当時の小倉将信共生社会担当相は経団連や日本商工会議所に対し、再発防止の徹底を強く要請した事例がある。

内閣府が2021年11月に公表した調査によると、1社以上から内々定を得た学生のうち11.6%が「オワハラを受けたことがある」と回答。

内々定を出す代わりに他社の就活をやめるよう強要されたり、内定承諾書の即時提出を求められたりする事例が目立つ。

この他にも、内々定後に長時間の研修を組んで他社の選考を妨害したり、頻繁な懇親会への出席を強要したり、自由応募なのに急遽「大学の推薦状」の提出を求めるといった強引な手法が報告されている。

「『大学が把握している』と分かれば引き下がることも多い」

今春卒業予定のある学生は、選考中から企業の人事担当者に「内定が出たら、うちに決めるよね?」と何度も念を押され、断りにくい雰囲気を作られたという。

内定したその日のうちに承諾書にサインさせるという強引な進め方に、学生は周囲の友人から「オワハラではないか」と指摘され、ようやく冷静になれたそうだ。

誠実さを欠く企業の姿勢が、皮肉にも優秀な人材を手放す原因となった象徴的な事例である。

就職エージェントという新たなサービスがからみ、深刻化する「オワハラ」問題。取材をした中央大学には年間で5000人前後の就活生がいるが、前出の松村キャリア教育・就職支援担当副部長は、最後にオワハラから学生を守る決意を強調した。

「今年度も数件の相談がありましたが、実際にはもっと多くの学生が一人で抱え込んでいて、我々が掘り起こせていないリスクもあるはずです。だからこそ今回、あえて学生向けに『すぐ相談してほしい』とメッセージを出しました。

自分一人で解決しようとせず、大学を頼ってほしいんです。学生にとっての盾になりたい。エージェントのクライアント企業にしても、大学からの印象を悪くするのは採用上の痛手ですから、『大学が把握している』と分かれば引き下がることも多い。

エージェントが当たり前の時代だからこそ、先輩の紹介だからと鵜呑みにせず、彼らの実績を慎重に見極めてほしい。少しでも違和感があれば、迷わずキャリアセンターのドアを叩いてください。それが自分を守る一番の近道ですから」

就活の早期化という荒波の中で、孤立する学生をいかに守るか。大学側の毅然とした姿勢が、かつてないほど問われている。

さらに学生の弱みにつけこむ悪質なエージェントや企業は、社会の厳しい目が注がれていることを自覚しなくてはならないだろう。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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