「教育投資ジャーナリスト」を名乗り、2016年から始めた自身の娘の中学受験記を綴ったブログで知られるようになった戦記さん。直近では、英検1級の2次試験に不合格だった娘(高校1年生)を「馬鹿娘」と記したポストが波紋を呼び、「モラハラではないか」「教育虐待」といった声が上がった。
日頃から娘の学習管理をExcelでおこなうなど、徹底した合理主義者として知られ、そのリアルな発信は常に賛否を集めてきた。戦記さんはなぜここまで教育を可視化し、発信し続けるのか、その根源に迫る。〈前後編の前編〉
アンチコメントにも宝はある
──たびたびポストが燃えていますが、どのような受け止めでしょうか。特に、戦記さんはネガティブな意見に対しても丁寧にリプライしているのが印象的で。
戦記(以下同) いろんな意見があるのはいいことですし、ご批判も歓迎という立場です。実際、私が2016年からアメブロで娘の中学受験記を綴っていたときも、ネット掲示板を中心にさまざまな批判がありました。しかしその批判の中にもわずかながら、当時の娘の学習上の問題を解決してくれる提案もありました。
今回の娘の件についていえば、昨年7月時点で合格している英検1級の2次試験における彼女の弱点が日常英会話の絶対量であることはわかっており、指摘していました。これは娘の指導をお願いしている英語コーチも同意見でした。しかし娘はそれを無視して勉強し、結果は不合格。
不合格という結果が問題なのではなく、そのプロセスに問題があったと私は考えています。親が「馬鹿娘」と言わないと、誰も言ってくれないんですよね。
──ややもするとアンチではないかと思われるコメントから学ぶこともある、と。
娘が小学校低学年のときの話ですが、当時、私は買ってきた問題集を解き切るように指導していました。わからなければ、正解を与え、解説をする――ということです。
しかしある日、掲示板に「それは間違いで、わからない問題はすぐに正解を与えず、一晩寝かせてもう一度取り組ませたほうがいいのに」と書いてありました。それを実践すると、娘の学習に対する姿勢が以前よりも意欲的になったのを覚えています。アンチの方からのコメントにも宝はあるのです。
きっかけは自身の中学受験
──戦記さんが娘さんの学習にここまでの熱意を見せる理由は何なのでしょうか。
私が生まれた一族は、当時、大卒が誰もいないような家でした。たとえば正月に集まっても、受験の話が出たことなどありません。ところが私が小学生のとき、祖母が亡くなり、多少の遺産が入ったんです。親戚のなかに中学受験を志した子が出てきたこともあって、家のなかでも「うちもやってみようか」という空気があったと思います。
私は小6になりたての4月に江東区にある地元進学塾に入塾することになりました。入塾試験のとき、「満点じゃないか」と好感触だった算数は、まさかの100点満点中8点。
要するに、中学受験の土台が何もない状態で受けて、惨めな結果だったわけです。
──それでも千葉御三家の一角・市川学園に合格された。
確かに合格しました。けれども、私はいわゆる神童ではまったくなく、むしろ凡才です。だから睡眠不足も厭わずに勉強をしました。小学生の生活としてはひどいと思います。
夜中まで勉強して、眠くなったらすることは3つです。熱くて濃い緑茶を飲む、辛口ミントガムを噛む、そして包丁を研ぐ(笑)。包丁は、父親に「気持ち悪いから深夜に研ぐのはやめろ」と言われる始末でした。
1月に市川学園に合格したのちも、2月から始まる都内の早稲田、海城などの名門校を受けましたが、いずれも連敗しました。1月で燃え尽きてしまったんですね。
──結果をどう受け止めましたか。
中学受験が終わった時点で、自分なりに敗因分析をしました。まず圧倒的に時間が足りていませんよね。1989年当時、通常は受験暦の新小5(小学校では4年生の2月)から受験勉強をするのが普通で、新小4から開始したら早いと言われる時代でした。
私は新小6がスタートして2ヶ月ほどして入塾しています。一般的に2年から3年間を費やす中学受験の勉強を、10ヶ月ほどの勉強で戦わなければならなかったことになります。個々の学習内容にしても、今にして思えば非効率的なやり方をしている部分が多く見受けられました。
もう少し早く始めて、効率性を考えた学習方法で勝負に挑めたらよかったなあと感じたのを覚えています。とはいっても、両親含めて誰も勉強方法を知りませんから効率性なんて分かりようもないのですが。
──そのときの後悔が、娘さんの学習に傾ける情熱に繋がっている。
大いに関係あるでしょうね。子どもが生まれたら、自分のような無駄なことをしてほしくないなと感じたのは覚えていますから。
深夜2時帰宅、朝5時起きで娘と勉強生活をスタート
──娘さんが通学している学校名は非公開ながら、東大受験指導の専門塾である鉄緑会に通われていることから、非常に優秀であることがわかります。
ただ、そんな娘も、小1で最初SAPIXに入ったときの偏差値は42でした。クラスも一番下だったんです。それまで学習管理は妻が担当していたのですが、その結果を受けて、妻を“クビ”にしました。
──クビ!? またかなり強い言葉ですね……指導力に不安があったのでしょうか。
いや、妻の性格上、仮に娘の中学受験がうまくいかなかったとき、すべての責任を抱え込んでしまいそうだったので。「SAPIXでの成績や受験結果含めて全ての責任は私が取るから、これからは私が学習管理をする」と伝えたんです。
2016年3月当時、まだ私は三井物産に勤務していて、深夜1時~2時に帰宅して、朝5時に起きて娘と一緒に勉強する生活が始まりました。
──かなりハードですね。娘さんの学習に寄り添うだけでなく、戦記さんは試験結果などをネットに公開しています。その是非もたびたび議論にはなりますが、単純な疑問として、忙しいなかでそこまでの情熱を注ぐのはどうしてでしょう。
始めた2016年当初、ブログは古代ローマのカエサルが紀元前50年頃に書いた『ガリア戦記』をモチーフにしていました。淡々と事実を記していくスタイルが好きなのです。
それは、将来の自分を戒めるためでもあるんです。常にブログの読者は将来の自分である、と想定していて、学習方法について間違いがあれば都度改めればいい――そんなふうに思って書いていました。
また、記録したものを公開することには、明確なミッションがあります。教育投資情報の格差是正に少しでも貢献したいと考えています。
中学受験は現在、私自身が参戦した1989年当時よりもますます高度化し、情報を持っている人とそうではない人の有利不利がかなり顕著になっています。言葉を選ばずにいえば、すでに形成されている上位層が情報も学力も抱えてしまって、地方から参入することはかなり高いハードルがあります。
その反面、今はスマホがあるので、情報にアクセスするのが以前よりは容易になってきています。もちろん人生は前提として不平等なものかもしれませんが、私がこうして発信をすることで、“受験界隈”についての知識を得られる人が増えれば、戦記を綴った意味があったといえるかもしれません。
実際、「受験に詳しくないので教えてほしい」という学生や保護者からの相談に応じることもあります。
#2に続く
取材・文・写真/黒島暁生

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