「金本監督には本当に感謝」「岩崎は粋な男」元阪神・原口がタイガースの一員で幸せだったと思ったこと〈原口文仁×牛窪恵〉
「金本監督には本当に感謝」「岩崎は粋な男」元阪神・原口がタイガースの一員で幸せだったと思ったこと〈原口文仁×牛窪恵〉

マーケッターで立教大学大学院客員教授の牛窪恵さんが、新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう』(集英社)を発売し、これを記念したトークイベントのゲストに、元阪神タイガースの原口文仁さんが登場。

 

大腸がんという大病を克服し、昨年、阪神一筋16年というプロ野球人生を終えた原口さんには、本書で綴られた幸せに関する考察と共通する部分が多くあった? 牛窪さんが虎党を代表して、原口さんの幸せな現役生活の裏側を聞いた。

金本監督のおかげで野球人生が動き出した

牛窪恵(以下、牛窪) 原口さんは2019年1月に大腸がんステージ3BであることをTwitter(現・X)で公表なさいました。また、「復帰して頑張ることが、自分の使命だと思う」ともコメントをされていました。あのときの「使命」には、どんな思いが込められていたのでしょうか。

原口文仁(以下、原口) プロ野球選手として、こういう大きな病気にかかることはあまりないと思うんです。まだまだ影響力がある現役選手である僕が頑張れば、同じ病気の人やご家族の方に勇気や元気を届けられるという気持ちから、あのツイートをしました。

牛窪 それにしても手術されてから復帰が早かった。

原口 早く戻って1軍の舞台で活躍することはひとつのモチベーションになっていたので、本当に順調にリハビリ過程をこなせました。

牛窪 ここ一番の場面に強いイメージのある原口さん。とくに印象的なのは2019年(6月4日ロッテ戦)、大腸がんから1軍復帰し、その初戦で放った代打タイムリーです。あの打席は泣きました……!

またその少し前、4月の2軍練習前の円陣で、原口さんは「人生を幸せに生きるコツは、小さな幸せを見つけること」だとおっしゃったとも伺ってます。本書のテーマともつながりますが、原口さんが考える「小さな幸せ」とは?

原口 手術直後は、今日はジョグができた、今日はジョグからダッシュができた。マシン打撃ができたと段階を踏めていくことや、球場に行ってみんなと一緒に野球ができるだけで幸せでした。

今だったらたとえば今日、天気が良くて桜がキレイだなと思いながら職場に向かったんですが、それも小さな幸せですよね。

牛窪 それはやっぱり大病を患ったから気づけたこと?

原口 もちろん。病気にならなくても気づけたら一番いいんでしょうけど。

牛窪 当たり前だと思ってることに感謝することって、すごく大事ですよね。本書でも感謝という情動がまた別の感謝を呼ぶ「情動伝染効果」として解説しています。人への感謝、天気への感謝、桜が咲いたことへの感謝。小さなことでも感謝された側はもちろん、実は感謝をした人のほうが、より強い幸福を実感できるという研究結果も出ているんです。

原口 へ~。

牛窪 阪神ファンでしたら阪神園芸さんやサンテレビさんへの感謝も忘れちゃいけませんね(笑)。

原口さんは、2015年のオフにも、当時新たに就任したばかりの金本(知憲)監督につきっきりで練習を見てもらったことについて、すごく感謝したとおっしゃってましたよね。

原口 (当時、育成選手契約で)来年も契約してもらえるかなという立場で甲子園で金本監督に見ていただいて、とてもいいバッティング練習ができたんです。それがあって翌年は1軍デビューできたりと野球人生が動き出したので、本当に感謝ですね。

2023年のビールかけ秘話

牛窪 

もう、日本一になった2023年のことはいろいろ伺いたいことだらけなんですが、まずは「Vamos!」(スペイン語で「さぁ行こう!」)の秘密についてお伺いしたいと思います。

この年、8月3日中日戦の試合前円陣で、声出し役の原口さんが最後に「バモス!」と叫んだあと、チームは破竹の10連勝したんですよね。

また、9月に再び原口さんが声出しを担当すると、なんと無敗の11連勝を飾り、見事リーグ優勝を決めました。

まさに、この掛け声がチームの結束を固めたと思います。今回の本でも「シャウティング効果」として、叫びの力を紹介しているんですけど、「バモス!」の誕生秘話としては、当時チームのマスコット的な存在だった、ミエちゃん(23~24年にチームメイトだったミエセス選手)の母国語、スペイン語の影響なんですか?

原口 以前からスペイン語を話す選手は入団していたのでバモスという言葉を耳にする機会が多かったけど、ミエちゃんのキャラがものすごくよかったのもあって、その年は選手間のコミュニケーションでバモスがよく使われてました。

それで声出しのときに(バモスという言葉が)自然と出てきたんですよ。

牛窪 連勝中は毎日のように原口さんが声出しを担当したわけですが、そろそろ負けちゃうんじゃないかというプレッシャーはなかったんですか?

原口 それよりも円陣でしゃべることがなくなって(笑)。僕がやるとわかってるから若手は(試合前の)シートノックをノビノビやってるのに、僕はシートノック中から何しゃべろうと悩んでた。そっちのプレッシャーはありました。

牛窪 そういえば、森下(翔太)選手が連続して声出ししてた時も「もうネタがない」と言って悩んでました。大変そうですね(苦笑)。

それと2023年の優勝と原口さんといえば、日本一を決めた日のビールかけでの「パインアメ(アレ)」の被り物ですよね。

原口 リーグ優勝が近づくにつれて、何かやりたいなと。僕が所属してる事務所の先輩の赤星(憲広)さんも、2005年のビールかけでまぁまぁ派手な格好(レイザーラモンHGのコスプレ)をされてたんで、僕もやるしかないとパインアメをつくってる会社(パイン株式会社)に連絡を取りました。

そしたら、広報の方が家でお母さんと手作りしてくれたんですよ。

牛窪 えー! そうだったんですか⁉

原口 ビールかけ後にその被り物にサインとコメントを書いて本社に送ったので、たぶん今も飾ってくれてると思います。

牛窪 また、リーグ優勝のあとにチームのみんなが着用していたバモスTシャツも、原口さんが別で発注していたそうですね。

原口 優勝が決まる日にたまたま完成品があがってきました。朝にトレーニングルームでみんなに配って写真を撮って、そのままビールかけにも着ていけた。いろんな偶然が重なったおかげです。

牛窪 ずいぶん準備がいいなと思ったんですが、たまたまだったんですね。やっぱり原口さんは持ってますね!

子育て中心? 引退後の生活

牛窪 私の書籍に沿った話でいうと、チームのメンバーが同じユニフォームやTシャツを着るのは「ユニフォーム効果」といって、まさにチームの結束を固める効果があります。

また、実は応援する「ファン」のほうも、選手と同じユニフォームを着ることで、チームや選手との一体化感情を得ることができます。これがいわゆる「チーム・アイデンティフィケーション(ID)効果(=拡張自己)」で、チームや選手と一体化したファンは、彼らが頑張る姿を見て「よし、自分も頑張ろう」などと自分を鼓舞し、幸福感を覚えることがあるんですよね。

そもそも他チームファンに比べて、阪神ファンは球場へと向かう時からユニフォームを着ている方が多い。それは原口さんもお感じになっていましたか?

原口 タイガースファンってどこの街に行っても、電車の中からユニフォームを着てるじゃないですか。

あれはスゴイなって思いますね。タイガースを愛してるなって伝わります。

牛窪 また、阪神ファンといえば大歓声。あれは選手にどの程度届いてるものなんですか?

原口 ものすごく届いてます。2023年の優勝を決めた試合なんかは、「これが地鳴りのような応援か」と。僕が経験した中で一番スゴイ応援でした。

牛窪 あ、リーグ優勝を決めた、9月14日の甲子園ですね。9回表、マウンドに上がった岩崎(優)投手が、亡くなった横田(慎太郎)さんの登場曲『栄光の架橋』を流して登場した瞬間、ものすごい歓声と大合唱が鳴り響きました。

原口 流すことをまったく知らなかったので、僕もベンチで感動してましたよ。あの男はやりよりますね(笑)。ポーカーフェイスなのに粋なことをする。

牛窪 本当ですね。

試合の最後の締めはもちろん、チームや球場全体をビシッとまとめあげてくれる。オフのときにも、岩崎投手は投手陣とよくお食事に行かれてるみたいですよね。

でも野球選手は、仕事と家庭の両立が大変だと思います。実は本書では「幸せの損益分岐点」についても取り上げています。ある研究によると、年収800万円以上を稼ぐようになると、幸福度は上がるどころか、むしろ下がるケースも明らかになってるんです。

お金を稼ぐうえで、家族やプライベートなどを犠牲にする可能性もあるからだと考えられるようですが、原口さんは以前、ご家族と仕事の兼ね合いはどうされていましたか?

原口 現役のときは仕事にだいぶ時間をとられてしまうので、オフシーズンに旅行へ行ったりして埋め合わせをしてました。引退してからは家にいる時間が一気に増えたので子供の学校行事に参加できますし、新鮮な生活を送ってますよ。

それを家族がどう思ってるのかはわからないですけど(笑)、子供たちは「暇だったら遊び行こう」と言ってくれます。

牛窪 また、今回の本でアンケートに協力してくれた「TORACO(阪神の女性ファン)」の皆さんは、59%が、「親の影響」で阪神ファンになったと答えていました。

私が番組(毎日放送「よんチャンTV」)でご一緒させて頂いている、能見(篤史)さんの娘さんは、野球部のマネージャーをされてるらしいのですが、まだ5歳という原口さんの娘さんは、現時点で野球や阪神タイガースに興味がある感じでしょうか?

原口 野球が好きとは聞いたことがないですね。現役時代は甲子園やSGL(2軍本拠地の日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎)にもよく来てくれてましたが。

去年はSGLで守備についてると観客席の上段で走り回ってる姿が見えて、「また迷惑をかけて……」とか思いながらサングラス越しに目で追ってました(笑)。

牛窪 お子さんたちは引退試合でも、原口さんに手を引かれて本当にかわいかった(笑)。それでは、原口さんの今後の活動予定などについてお聞かせください。

原口 野球以外の仕事もいろいろ挑戦させてもらう中で、タイガースのユニフォームを着てたことで影響力もありますし、闘病の経験を伝える仕事だったり挑戦を後押しできる社会貢献活動もしていきたいと思ってます。

牛窪 最後に、私の推しである森下選手、今年はいかがでしょうか?

原口 WBCで大きな刺激を受けて帰ってきて、とてもたくましい姿になってます。今シーズンもキャリアハイを残して、タイガースの連覇に大きく貢献してくれんじゃないでしょうか。

牛窪 良かった、ホッとしました。今日は本当にありがとうございました!

取材・文/集英社オンライン編集部

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