名古屋市教育委員会は、職員らを休ませる目的で“独自休暇”を設けて勤怠を改ざんしたとして60代の校長を減給13日(6ヶ月相当)の懲戒処分にしたことを発表した。実際に休暇を取得した40代の男性教員は「休暇は『勤務の割り振り』と呼ばれる勤務時間の調整と捉え、改ざんという認識はなかった」と述べている。
校長は「勤務が長い職員への配慮として行なった」と説明
3月19日に名古屋市教育委員会より公表された市立学校の男性校長A(60代)への懲戒処分。2019年度から現在に至るまでの7年間にわたり、校長を務めた3校に勤務する教員らに対し“独自休暇”を設けていたとして減給処分を受けた。
学校の教員らの勤怠はタイムカードで管理されており、独自休暇で休んだ分は後日、校長か教頭が出勤したように勤務記録を改ざんしていた。
この校長と同じ市立中学校で勤務していた男性教員のBさんが学校の勤怠システムについてこう説明する。
「教員がタイムカードを通すと教頭のPCにデータ(時刻)が転送されます。そのデータは編集可能なエクセルファイルのため、教頭や校長は自由に修正可能です。タイムカードのデータに間違いがないか、翌月頭に全職員にエクセルファイルを印刷したものが配られます。
各職員は確認の上で印鑑をおし提出します。“独自休暇”に関しては、職員は自分が欠勤した日も出勤扱いになっていることを確認した上で確認印をおしていました」
Bさんをはじめ、職員はA校長から夏休み前に1.5日、冬休み中に1日、学年末の春休み中に0.5日、さらに修学旅行と野外学習の引率者には各1日の独自休暇を設定すると説明されていたという。
ところがこの休暇について公益通報窓口に情報提供があったため、市教委が調査を開始し、このたびの処分に至った。名古屋市教育委員会の担当者は言う。
「通報窓口に連絡があった日付は言えません。
Bさんによれば「確かに“改ざん”という強い言葉を聞くと悪行をしたように思えて後ろめたさを感じるが、実際は『勤怠の割り振り』の延長線上のようなものだと認識していた」とA校長を擁護する。では勤怠の割り振りとは何か。
「教員は文科省により1週間につき40時間以上、1日につき8時間以上を超えて勤務してはいけないという原則を示しています。しかし修学旅行などの宿泊行事や土曜授業など、正規の勤務時間(原則7時間45分)を超えて勤務が必要な場合があります。
そうした際に教師一人ひとりの勤務時間が平均して週38時間45分となるように、勤務日と休日を入れ替える『勤怠の割り振り』をするような制度があるのです。A校長からはこの制度の範囲内だと説明を受けました」
「この独自休暇をありがたく感じていました」
Bさんによれば、この休暇はこんな呼び名で教員らの間では認識されていたのだという。
「A校長はこの休暇のことを『マルモク』とか『黙』と呼んでいました。校長が言うことだから認められたものだと、私ら職員は何ら疑問も持たずにいました。
A校長は全教員がまんべんなく休みを取れるように勤怠を組んでくれていました。ふだんは平日や土日も家に仕事を持ち帰ることもあるためほとんど休みがなく、この『黙』の3日間だけが民間企業でいうところの本当の休日に近い日でした。だからありがたく感じていました」
実際に、この処分に関する第一報が出た際は、Yahoo!ニュース記事のコメント欄には現役教師を名乗る人から、まともな休みを取らせない市教委や文科省への非難の声が殺到していた。
対して一般の人からは「こんな独自制度がまかり通るなんてひどい」「学校は独立王国か」などと校長への批判が飛び交った。勤怠の改ざん自体は許されることではない。しかしBさんは「改ざんというよりは訂正に近い感じだと思います…」と続ける。
「文科省の定めで、教師は決められた勤務時間以外の残業は認められていません。しかし仕事量は計り知れないほど多いのが実態です。そのため、自分の判断で『残業』をしています。私はなるべく残業せず家に仕事を持ち込むタイプです。その私ですら規定の残業時間を超えた40時間ですし、多い人だと100時間をゆうに超えます。
校長はこういった現場の状況を見て、独自に教師らで割り振りする『黙』の日を制定したのでしょう。校長をかばいたいわけではないが、怠慢とかサボる意味での休みというよりは、本来、得て当然の休みを部下に取らせるために勤怠を上手にローテーションして訂正した感覚でした」
そもそも教員はいわゆる残業代として給料月額の6%(昨年は5%)に相当する「教職調整額」を包括的に支給されており、残業時間に応じた残業代が支給される制度にはなっていない。しかし、過度な残業を強いられている教師たちの現状には、全く見合っていない制度と言えるだろう。
「連続7時間以上の勤務を毎日しています」
都内の学校に勤務する30代女性教師は、この報道を受けて次のように話す。
「教師の勤務時間は本来8時15分から16時45分までですが、私の学校では出勤は7時30分で帰宅は早い時で20時、テスト前後などは22時になることもあります。
昼食は5分で急いで食べて昼食指導にあたり、本来決められた15時45分から16時30分までの休憩時間も会議や部活指導などで休みは取れません。ほぼ休憩時間のない連続7時間以上の勤務を毎日しています。こちらの校長がそのような独自休暇を制定してくれたことは教師からしたら感謝です」
また、都内近郊の公立中学校で勤務する30代男性教員もこう語る。
「文科省や市教委には処分を下すだけでなく、現状の改善が必要だと思います。教師の仕事は授業や課題作りだけでなく、各教師に割り振りされる『主任』の仕事が大きく重くのしかかっています。
2月から3月は教科書担当主任の教員は生徒の教科書発注に追われました。これらはできれば教師ではなく、もっと他の人材を確保してほしいところです。担当する科目以外の仕事が多すぎます。残業への補填や、業務改善を期待しています」
いっぽうで都内の公立小学校の50代のある副校長はこう切り捨てる。
「子どもたちにルールを教えている教師がどんな事情であれ、ルールを破るのはダメでしょうね。要はその校長は若い先生に飴を与えて気に入られたかったのでしょう。
『教師の働き方改革』といいますが、要は若手教師のご機嫌取りで、子どもたちは二の次の改革です。楽しみにしている運動会は『先生の都合』で短縮しますし、部活動も減ってしまった。
20年前、教師は倍率が物凄く高かったし、それなりに志を持って働いていた。それが今では教師不足で、能力も低く、生徒よりプライベートを優先してしまう教師が増えた。それも時代と言ってしまえば、それまでですが…」
名古屋市教育委員会の担当者にこういった教師たちの声を伝えると、「学校教員は生徒の定数で決まっており、人材確保となると財源に関わることで名古屋市だけでどうこうできるものではない」と話した。
また、A校長は今年3月で退職したが、「以前より退職の意向は聞いていた。今回の懲戒処分をもって退職させたわけではない」とも述べていた。年齢的には定年退職の可能性もあり得る。
もちろん法律を破り、勝手に独自の休暇を与えることは許されることではない。しかしその背景に、きちんと正規の休みを取得できない事情があるとすれば、文科省や教育委員会は対応する必要があるのではないだろうか。
独自の休暇を与えていたA校長は、日本の教育現場が抱えている教員の「働き方改革」の問題をどう見ていたのだろうか。
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取材・文/河合桃子 集英社オンライン編集部ニュース班

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