「この2人の俳優がいなければ『ON&OFF』は存在しなかった」韓国発のWebドラマが異例の世界的ヒット! 監督が明かす裏側
「この2人の俳優がいなければ『ON&OFF』は存在しなかった」韓国発のWebドラマが異例の世界的ヒット! 監督が明かす裏側

1話数分、1season=1時間程度で気軽に視聴できると近年人気が高まっているショートドラマ。その中でも今、世界的な注目を集めている作品がある。

女性同士の切ないオフィスラブを描いた韓国発のYouTubeドラマ「ON&OFF」。シリーズ累計770万再生を突破したWebドラマはなぜ異例のヒットを果たしたのか──。制作会社「Sukfilm」に話を聞いた。(前後編の前編)

韓国と日本でファンミーティング

ドラマ「ON&OFF」とは──切ないストーリーを軸に、魅力的なキャラクターを深い解釈で表現する俳優たちの卓越した演技力、そして映像の美しさが高く評価されている「ON&OFF」シリーズ。

韓国国内のみならず、日本、中国、台湾、アメリカなど海外でもその人気は加速し、この夏にはWebドラマとしては異例の「ファンミーティング」が韓国と日本の2カ国で開催されるなど、まさに注目の作品です。

そんな「ON&OFF」シリーズは、仕事人間で冷徹な上司クォン・セア(演:ハン・ジウさん)と、純粋な新入社員イ・ハユン(演:チョ・ユンさん)が働くオフィスが舞台。

ある日、飲み会で酔っ払ったハユンは、密かに思いを寄せていたチーム長のセアに勢いで告白。紆余曲折あって2人は恋人となりますが、同じ職場で働く上司、部下である2人にとってこの関係は絶対に隠し通さなくてはならない秘密です。

そこで、職場では徹底的にお互いの感情を隠す「ONモード」。2人きりの時には素直な感情を解放する「OFFモード」に切り替えるという設定を導入するのですが、この”2人だけのルール“こそがシリーズの大きな鍵を握ります。

そして本作の1つの鍵となるのが、「미치겠다 너 때문에(ミチゲッタノッテムンネ/おかしくなりそう、あなたのせいで……)」というセリフ。

「ON&OFFシリーズ」では直接的に愛情表現を言語化することが極力避けられており、感情が昂った2人は「미치겠다(ミチゲッタ/狂いそう……)」と囁くのですが、このセリフは本作の代名詞ともなっており、主演の二人が好きなセリフとしても挙げています。

2025年8月3日から公開されたseason1は1話10分程度の4部作。

”ON“と”OFF“の設定に縛られるあまり、すれ違いを繰り返しながらも互いを思い合うセアとハユンの恋模様は多くの視聴者の心を震わせました。 

特に注目されたのは、それぞれのキャラクターの感情が、セリフだけでなく目線、手の動き、声音そして息遣いなど、繊細な演技で立体的に表現されているという点。こうしたディティールの細かさとクオリティーの高さからseason1の総集編は153万再生を突破しています。

監督を直撃!

こうした人気の高まりを受け、2025年12月から公開されたseason2では、時間経過により少し関係性の変わった2人の様子が描かれることに──。

これまで鎧を纏っていたセアがハユンとの出会いで少しずつ心を溶かされるも、嫉妬心からハユンに「じゃあ、キスして」とせがむ姿や、社会人として背伸びしながらもセアに一途な愛情を注ぐハユンの姿など、安定した恋人同士の関係性が多くの支持を集めています。

そして2026年3月現在展開中の season3では、セアに好意を寄せるゲストキャラクターに翻弄されるハユンと、ハユンと一生を共に過ごすと決めながらも家族に関係を打ち明けられずにいるセアの葛藤などが、シリーズ初となる2部構成で描かれていきます。

異例のヒットを記録するWebドラマはどうやって生まれたのか、韓国へ飛んだ──

「LGBTQコミュニティを通じて温かい関心と応援をいただいてきたからこそ、期待を裏切るような作品ではお返ししたくないという、私なりの哲学があります」──そう語るのは韓国のドラマ制作会社・Sukfilmの代表で「ON&OFF」シリーズの監督。同社が手掛ける全てのシリーズに携わっている監督に、まずはお話を伺った。

── SUKFILMの設立背景と、会社の始まりについて教えてください。

最初は、「テレビでは扱いにくい、より素直でリアルな20~30代の物語を作ってみたい」という思いから始まりました。 2021年4月4日にYouTubeに「Sukfilm」のチャンネルを開設しました。

── YouTubeをメインのプラットフォームに選んだ理由は。

さまざまなアイデアを自由に広げられるプラットフォームだからです。

YouTubeは国境を越えて誰でもアクセスできて、比較的小規模な制作会社でも自由にさまざまな挑戦ができる環境だと考えました。新しい形式のドラマを実験してみるうえでも、適したプラットフォームだと感じました。

── YouTubeベースのドラマ制作会社は珍しいと思うのですが、強みと難しい点を教えてください。

最大の強みは、視聴者の反応を素早く確認し、それを作品に反映できる点です。一方で、距離が近い分、小さなミスや議論が起きた際に、チャンネルの雰囲気や再生回数、登録者数にすぐ影響が出る可能性があるため、その点は常に慎重であるべきだと考えています。

──収益構造については安定しているのでしょうか。

実際のところ、月ごとの収益が黒字に転換してからまだ期間も経っていないため、今でも収益構造が完全に安定したとは言いがたいです。YouTubeチャンネルはいつ状況が変わってもおかしくないため、常に緊張感を持って運営しています。

──「Sukfilm」といえばボーイズラブ(BL)、ガールズラブ(GL)といったLGBTQを題材にした作品に定評があります。こうしたジャンルに特化するようになった理由を教えてください。

以前からBLとGLというジャンルに関心がありました。最初に関連作品をチャンネルにアップロードした際、韓国国内だけでなく海外からも多くの視聴者の方々が温かい反応を寄せてくださり、その経験がこのジャンルを継続して作り続けるきっかけになりました。

──社内で最初にヒットした作品と、これまでで最も大きな成果を上げた作品をあげるとすると。

すぐに思い浮かぶ作品としては「Blue Boys」と「ON&OFF」シリーズがあります。特に「ON&OFF」シリーズは、累計再生回数700万回以上を記録し、SUKFILMチャンネルを多くの方に知っていただくきっかけになった作品です。

監督が明かす、ドラマ「ON&OFF」誕生のきっかけ

──『ON & OFF』シリーズの企画が生まれたきっかけを教えてください。

既存の作品よりも、キャラクターの劇的な変化により焦点を当ててみたかった作品です。「ON」と「OFF」というキーワードを通して、一人の人間の姿が状況によってどれほど違って見えるのかを表現したいと思っていましたし、俳優のみなさんがその境界を魅力的に表現してくださったことで、作品の雰囲気がより際立ったと感じています。

──シリーズ全体を通して、監督が最も大切にされた価値は何ですか。

全体としては、何よりも俳優たちのビジュアルと演技力の調和を最も重視しました。私たちはどうしても全体の予算やロケーションに限りがあり、ストーリー面でも多くの制約があったため、それを視覚的で刺激的な要素によって補う必要があると考えました。そのため、美しい映像だけでなく、しっかりとした演技力も非常に重要だと考えていました。

──各シーズンに込められたメインテーマと隠れたテーマを教えてください。

恋人関係が持つ立体性と流動性を描きたかったです。

時間が経つ中で、それまで知らなかった相手の一面を知ることもありますし、関係の中で感情の主導権が入れ替わる瞬間も生まれます。そうした関係の変化や逆転を通して、恋愛が持つさまざまなスペクトラムを表現したいと思いました。

season1では「クールな職場の上司と部下の間に隠された密やかな緊張感」。
season2では「完璧に見えたセアの揺らぎと嫉妬」。
season3では「柔らかさの中に隠されたハユンの独占欲と嫉妬」をテーマに描いています。

──ライバルキャラクターは、どのような構想過程を経て作られたのですか。

主人公たちの関係を揺さぶる人物たちであるだけに、ビジュアル面でも演技面でもしっかり対立できるキャラクターを探しました。また、セアとハユンが抱える欠乏感を刺激したり、2人が持っていない面を備えた人物を登場させたりすることで、感情がよりいっそう極大化するように構成しました。

──撮影中、印象に残っている出来事やビハインドストーリーがあれば教えてください。

撮影現場は比較的小さなチームで進めていたため、俳優さんたちもスタッフも自然とアイデアを出し合える雰囲気でした。そうした過程の中で、予想していなかった良いシーンがたくさん生まれました。たとえばseason2のキャンディーを使った「HALLSキス」などは現場での話し合いで生まれたシーンの1つです。

──俳優陣が提案したアイデアの中で、最も印象に残っているものはありますか。

台本にはない細かな手の動きや、お互いを見つめるときの視線の処理といった繊細な表現をたくさん提案してくれました。おかげで、私が当初考えていた以上に立体的なキャラクターが完成しました。

──スキンシップのシーンを演出する際、特に気を配った部分は何ですか。

単に刺激的に見えるだけのシーンにならないよう、最も気を配りました。2人の関係性や感情が自然に伝わるように、行為そのものよりも感情の流れや呼吸を表現することに努めました。

私が男性監督であるぶん、女性キャラクターたちの繊細な感情やスキンシップのシーンを演出する際には慎重になる部分が多くありました。そのため、俳優たちが安心して演技できる環境を整えることに注力し、十分にコミュニケーションを取りながらシーンを作っていきました。

──カラーグレーディング、画面構図(画角)など映像面で特に意識したポイントを教えてください。

全体としては都会的で洗練された雰囲気を保ちながら、2人が一緒にいる空間では温かみのある色味を使い、「ON」と「OFF」のコントラストを表現しようとしました。さらに、クローズアップを積極的に活用し、人物の微妙な感情の変化を捉えることに集中しました。

撮影はPDさんが担当しているのですが、本当に能力が高い方で、ワークが光っていると思います。

──OSTの選定基準はどういうものだったのでしょうか。

音楽はシーンの雰囲気を完成させる重要な要素だと考えています。歌詞があまりにも直接的すぎず、それでいて2人の感情を自然に引き立てられるような、幻想的で感覚的な音楽を中心に選びました。

──セアをハン・ジウさんが、ハユンをチョ・ユンさんが演じたことについて、今改めて振り返ってみるといかがでしょうか。

この2人の俳優がいなければ、今の「ON&OFF」は存在しなかったと思います。それぞれのキャラクターを期待以上に見事に表現してくださり、監督として本当に感謝の気持ちしかありません。

──海外でも大きな人気を得たことについての感想はいかがでしょうか。

とにかく日本や海外で私たちの存在を知ってくださっているということに驚いています。予想をはるかに上回る大きな愛をいただき、今でも驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。

言語や文化が異なっても、「愛」という感情は共感してもらえるものなのだと感じました。俳優さんたちのケミストリーや演技、そして愛という普遍的な物語が、海外のファンの皆さんにもきちんと伝わったのだと思います。好きになってくださって、本当にすごくうれしいです。

──今後SUKFILMで挑戦してみたい新しい試みについて教えてください。

今後は、OTTでの配信や映画祭への出品が可能な、完成度の高い作品にも挑戦してみたいと考えています。今よりも大きな規模の制作環境の中でも、十分に高品質な作品を作ることができるという可能性をお見せしたいです。

──最後に、ファンの皆様へのメッセージをお願いします。

SUKFILMの作品を愛してくださる国内外のファンの皆さまに、心より感謝申し上げます。
GLやBLジャンルのドラマを作る中で、LGBTQコミュニティを通じて温かい関心と応援をいただいてきたからこそ、期待を裏切るような作品ではお返ししたくないという、私なりの哲学があります。まだ足りない部分も多いですが、一歩ずつ成長しながら、より良い物語と作品でお応えしていきたいと思います。

後編に続く

取材・文/Kikka

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