喫茶店で、飲み終わる頃にそっと出される一杯のお茶。銀座ルノアールの名物サービスは、長年親しまれる一方で、その意図をめぐってたびたび話題になる。
ルノアールの“最後のお茶”は追い出しサインなのか
先日、ネット上でこんな投稿が注目を集めた。
「ルノアール、入店して40分くらい経ったら茶を出してくれたんだが、これってぶぶ漬け的なことなのかガチのサービスなのか分からんくてシンキングタイム」
喫茶店で飲み物が残り少なくなったころ、店員がそっと運んでくる温かいお茶。喫茶店「ルノアール」でおなじみのお茶の無料サービスについて、疑問に感じた人も少なくないという。
ネット上ではたびたび、「あのお茶は絶妙なタイミングで出てくる」「店員さんはどうやって見ているのか」と話題になる。一方で、あまりに見計らったように提供されるため、「もしかして、そろそろ席を立つ頃合いという意味なのでは」と勘ぐる声が出るのも分からなくはない。
そこで今回、この“謎”について銀座ルノアールの担当者に聞いてみた。
まず気になるのは、提供のタイミングに厳密なマニュアルがあるのか、それとも現場の裁量なのかという点だ。
「ドリンクをあと一口か二口で飲み終えるころにお出しするのが理想とされています 。ホールのスタッフが、お客様のドリンクが半分以下になったのを見計らって準備を開始しており、状況に応じた対応を行なっています」
つまり、一定時間ごとに機械的に提供しているわけではないことが分かる。
無料で提供されるお茶は偶然でも、単純な時間管理でもない。客席の様子をよく見て、会話や滞在の流れを邪魔しないように差し出される、かなり繊細なサービスだといえる。
では、このサービスはいつ、どんな目的で始まったのか。
「創業当初から続くサービスです 。『お茶をお出ししますので、その後もゆっくりとお過ごしください』というおもてなしの心を形にしたものです」
絶妙なタイミングに込められた真意
飲食店では、回転率や効率が重視されることも少なくない。しかしルノアールは、最後の一杯を「退出の予告」ではなく、「くつろぎを延長するための一杯」として提供しているという。そこに、この喫茶店の哲学がにじむ。では、こうしたサービスが業績の向上に結びついたといった検証はあるのだろうか。
「前述のご回答の通り、創業当初からおもてなしとしてご提供しているので、業績に対する測定はしておりません。ありがたいとお褒めいただくこともあれば、反対にお茶が出なかったことに対して厳しいご意見をいただくこともあり、お客様からの期待の大きさを実感しております」
担当者の回答から、このサービスがすでにルノアールの体験価値として強く認識されていることがうかがえる。
さらに、少し踏み込んで、落語や都市伝説として有名な「京都のぶぶ漬け」(お茶漬け)のように、長居する客に対する「そろそろお帰りください」という遠回しなサイン(いけず)ではないかという疑問も率直にぶつけた。
これに対し担当者は、「決して退店を促す意図はありませんし、早く帰ってほしいというような意味合いは、もちろんございません」ときっぱり否定している。
多くの人が気にしていた「帰りどきのサインなのか」という疑問に対し、ルノアールの答えはむしろ真逆だった。
喫茶店の価値は、コーヒーの味だけでは決まらない。そこで過ごす時間の質や、落ち着ける空気、話しやすさ、仕事のしやすさといった要素が積み重なって、その店らしさになる。
銀座ルノアールの最後のお茶は、まさにその象徴なのだろう。客を急かすためではなく、むしろ「このあともどうぞゆっくり」と伝えるための一杯。その“謎”を解いてみると、まっすぐなおもてなしの心があった。
取材・文/集英社オンライン編集部

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