JRFU女子代表コラム RWC2025に挑む

積み上げが武器、ラグビーワールドカップ 2025に挑む女子日本代表

女子ラグビーワールドカップ2025イングランド大会が8月22日に開幕する。3大会連続出場の女子日本代表は、2大会連続で指揮を執るレスリー・マッケンジーヘッドコーチの下、ベスト8以上を目指して世界の強豪に挑む。武器はこの3年間の積み上げだ。

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「3年前とは違うチームになっている」

 ラグビーワールドカップ・イングランド大会に臨む女子日本代表を発表したレスリー・マッケンジーヘッドコーチは、力強く言った。

 元カナダ代表選手として2度のワールドカップを経験している指揮官が女子日本代表を率いて初めて臨んだ前回ニュージーランド大会では、新型コロナウィルス感染症の世界的流行の影響を受けて1年遅れでの開催となり、出場国の準備状況にもばらつきがあった。日本も難しい状況の中で準備して臨んだが、カナダ、アメリカ、イタリアの世界ランク上位陣に3戦3敗で大会を終えた。

 それから3年。雪辱を期す日本を率いる指揮官の言葉と表情には、前回大会の経験を経て試みてきた積み上げに手ごたえを覚えている様子がうかがえた。

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背景には、2023年に新設された女子国際大会WXVでの経験とコーチングスタッフの充実、そして選手の海外でのプレー経験などの変化がある。

 サクラフィフティーンの愛称で知られる女子日本代表は、発足から2年連続でWXV2(2部)に参戦。それまで女子シックスネーションズのような毎年参戦できる大会がなかった日本にとって大きな強化の機会となった。年間を通しての試合数も増え、WXVを含めて2023年はテストマッチ9試合で7勝2敗。2024年は10試合で3勝1分け6敗と負けが先行したものの、開催国でランキングも近い南アフリカ、上位ランクのスコットランドとウェールズを相手に接戦を演じた。

 さらにマッケンジー指揮官はマーク・ベイクウェル氏、べリック・バーンズ氏、サイモン・ミドルトン氏、オリバー・リチャードソン氏ら経験豊富なコーチ陣を招聘して、日本の強みを生かせる体作りやフォワード(FW)とバックス(BK)のプレー強化を徹底。「試合より練習の方がきつい」と選手たちが口々に語る質量ともに数段上がったトレーニングで、その成果はセットプレーの改善や得点力アップ、日本の良さであるテンポの速いプレーや終盤でも落ちない運動量、粘り強さに表れている。

 「必要な強度を補い、選手の理解や遂行力も大きく伸びている」とマッケンジーヘッドコーチは自信を示す。

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また、海外クラブでプレーを経験する選手も増えて、PR加藤幸子とCTB小林花奈子はイングランドのエクセター・チーフス、SO山本実もウスター・ウォリアーズとセール・シャークスでプレー。PR永田虹歩は2024年にニュージーランドのブルーズ・ウィメンで優勝に貢献し、BR齊藤聖奈も今春ニュージーランド強豪のチーフス・マナワに参戦した。

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同僚にニュージーランド代表選手が多かったという齊藤は、練習や生活を共にすることで「彼女たちも同じ人間なんだなと気付いた」と笑い、世界タイトルを獲得した選手たちに抱いていた不必要なフィルターが外れたという。その一方で「オンとオフの切り換えがうまい」と指摘。後者については、加藤や山本も異口同音にイングランドのプレー生活で感じたと言い、強豪と言われる選手たちのライフスタイルからも、自分たちのステップアップのヒントを得ているようだ。

 日本は前回のワールドカップ直前に敵地でニュージーランドと対戦して12-95で大敗したが、齊藤は「その時とは違う自分がいる。今回、敵として対戦するのはすごく楽しみ」とチーフスの元同僚との再会を心待ちにしている。

 2017年ワールドカップでキャプテンも務めた齊藤の“発見”がチームに波及すれば、相手をリスペクトし過ぎないなど、試合に臨むチームのマインドセットにも変化が生まれそうだ。

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ハードな練習や海外クラブでのプレーなどさまざまな取り組みを通して、選手たちは高いレベルのポジション争いを繰り広げ、それを勝ち抜いた女子日本代表32人が、今回のイングランド大会のメンバーに選ばれた。

 マッケンジーヘッドコーチの下で前回大会を経験した顔ぶれは19人で、齊藤、山本、主将の長田、SH津久井萌は3度目のワールドカップ挑戦となる。FB松田凛日やCTB弘津悠らパリオリンピックや東京オリンピックで7人制代表を経験したメンバーも5人を数える。

手ごわい顔ぶれ

大会出場は16チーム。前回大会の4強入りで出場権を確保したニュージーランド、カナダ、フランスと前回準優勝で今大会ホストを務めるイングランドの4チームに、アジア予選を制した日本を含め各地域予選を突破したアイルランド、アメリカ、南アフリカ、フィジー、ブラジルの6チーム、昨年の女子国際大会WXVで出場権を獲得したオーストラリア、スコットランド、イタリア、ウェールズ、スペイン、サモアの6チームという顔ぶれだ。

大会では4チームずつ4組に分かれてプールステージを行い、各組上位2チームがベスト8へ進出。準々決勝、準決勝と一戦必勝で勝ち抜いたチームが、女子世界王座をかけて9月27日にロンドンのトゥイッケナムで決勝に臨む。

日本はプールCに入り、8月24日のアイルランド戦を皮切りに、31日にニュージーランド、9月7日にスペインと対戦する。突破となれば通算6度目の出場で1994年第2回大会以来31年ぶりとなるが、世界ランキングでは11位の日本に対してアイルランドは5位、ニュージーランドは3位、スペインは13位と手ごわい。

マッケンジー女子日本代表ヘッドコーチも「タフなプールに入った」と認める。

アイルランドは2014年大会ベスト4で、昨年のWXV1(1部)ではニュージーランドに勝った実績があり、ニュージーランドはワールドカップ2連覇中で7度目の制覇を目指している。スペインは昨年のWXV3(3部)で優勝して2大会ぶりのワールドカップ出場を決めた。スペインとは7月の日本国内でのテストマッチ2連戦で日本が連勝しているが、その対戦をもとに相手も修正を施すことを考えれば、決して油断はできない。

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2015年のように

日本のプールステージ突破は初戦のアイルランド戦の勝利が鍵になる。勝利で2戦目、3戦目につなげたい。日本の強みを発揮するには、それぞれの試合後のメンタル面でのリカバリーや切り換えもフィジカル同様かそれ以上に重要になりそうだ。

マッケンジーヘッドコーチも「アイルランド戦が重要」と話す。

日本は、8月9日にイタリア北部で本大会前最後のテストマッチを行い、世界ランキング7位のイタリアに15-33で敗れたが、山本は「自分たちのダメなところを見直せた」と前向きだ。2大会ぶりにワールドカップに臨むLO桜井綾乃は、イタリア戦の反省から「試合の入り」を大会初戦のポイントに挙げている。

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長田キャプテンは3度目の大会を前に、「どの国もワールドカップへ向けてしっかり準備してきているので、どの試合もチャレンジングになる」と言う。だが、「私たちも他の国に負けない準備をしてきた。自信を持てる準備をしている。あとはしっかり結果を残すだけ」と言い切った。

前回大会に続いて2度目の世界舞台に臨むSH阿部恵は、「前回と比べるとチーム全体の経験値は上がっていると思う。やってきたことを出せばいけるという自信はみんなが持っている。同じ絵を見ることができている」と語る。

ベリック・バーンズBKコーチは、「2015年に男子の日本代表がやったような、サクラフィフティーンが世界から認められるような大会になることを願っている」と言う。それが選手たちのこれまでの努力に報いることになるものだとも。

2015年ワールドカップ初戦で男子日本代表は2度の大会優勝を誇る南アフリカに勝って世界を驚かせ、それをきっかけに2019年日本大会での8強入りや、国内でのラグビー人気上昇につなげてきた。

サクラフィフティーンが望むところに違いない。

取材・文:

スポーツジャーナリスト 木ノ原句望

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