“ファイナリスト”髙野進が語る東京世界陸上…「日本陸上が新しい時代に入った」91年の記憶と今大会への期待

1991年の東京世界選手権・男子400mで決勝の舞台に立った髙野進。3日、その髙野が東京2025世界陸上の開幕10日前、日本陸連100周年を記念した東京スカイツリー点灯式に姿を見せた。

当時30歳、円熟期を迎えていた髙野は、男子400mで日本短距離界として初めて世界陸上の決勝に進出し、7位入賞。“ファイナリスト”という言葉を日本に根付かせ、日本人でも決勝で戦えること、そしてマラソン以外にも陸上競技の多様な魅力があることを証明した。ともに同大会に出場し、今大会で日本代表を率いる山崎一彦チームリーダーからも「髙野さんは僕のスーパースター」と称えられる存在だ。

点灯式で行われた山崎や有森裕子らとのトークショーでは、「日ごとに観客が増えてきて最終日は満員御礼になる盛り上がりだった。34年前の東京世界陸上で一気に陸上の魅力が広まり、日本の陸上競技全体が新しい時代に入った」と当時を振り返り、「(今大会は)山崎チームリーダーが存分に戦ってくれるのではないかな」と、自身に憧れた後輩へエールを送った。

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陸上競技を取り巻く社会環境は、この34年で大きく変化した。選手と競技の関係もそのひとつだ。髙野は当時を「Jリーグもない時代で、スポーツといえば毎日6時にテレビでプロ野球を見るぐらい。陸上はアマチュアスポーツで、選手は教員になるか大企業で働きながら、傍らで競技を続けていた」と振り返る。今は「世界を見据え、プロ意識を持って“陸上競技で生きていく”というメンタルの人が増えて、すごく頼もしい。何かしてくれるのではないか」と、その変化に期待を込めた。

さらに、自身も評議員を務める日本陸上競技連盟の取り組みについても言及。

今年5月には東京駅前で一般参加型の“かけっこ”イベント「SPEED STAR 30m Dash Challenge」を開催するなど、普及活動が積極的に行われている。「昔は強化委員会だけが頑張っている」と見られていたが、今は「日本陸連の全ての知能を陸上競技の普及、発展、強化に結びつけるように頑張っているのが伝わってきて楽しみ」と目を細めた。

選手を支えるギアの進化も目覚ましい。特に近年はシューズやスパイクの革新が陸上界を揺るがしている。いわゆる“厚底シューズ”だ。競泳のレーザーレーサーの登場に匹敵する大きなパラダイムシフトが訪れており、「我々がより速く、より高くというロマンを追い求めた結果であり、そうなってくるのは当たり前だと思う。みんなが感動するようなパフォーマンスにつながってくれれば」と冷静に受け止める。

そして「走れるものなら今のスパイクで走ってみたい」と目を輝かせる髙野。今のギアで走ったらどうかと問われると、「まあ、44秒は切っていますね(※現在でもメダル当確ライン)」とユーモアを交えて笑いを誘った。

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髙野の決勝進出以降、日本の短距離界からもファイナリストが生まれてきた。さらに今季、100mで世界陸上の参加標準記録10.00を突破した選手が4人以上いる国は、アメリカ、ジャマイカ、南アフリカ、イギリス、そして日本の5か国のみ(8月27日時点)。日本スプリント陣の層の厚さを示す数字だ。

その背景には、科学的アプローチの進化があると髙野は指摘する。1990年には日本スプリント学会を立ち上げ、「カール・ルイスや色々な選手の動きを分析し、どうすれば日本人が9秒台を出せるのかという様々なセッションをやってきた」と振り返る。こうした“走り方を追求する”流れはその後広がり、「陸上のIQを高めないとついていけない、そんな時代」と語った。

一方で、どれだけ競技が進化しても変わらないものがある。「それはもう生身の人間ですから。プレッシャーに打ち勝つ気持ち、喜び、悔しさ。それは昔も今も一緒。400mを走り終わってぶっ倒れるのも一緒」と笑顔を見せた。

34年前を知る髙野が「頼もしい」と語る今大会の代表選手たち。その躍動、スタッフの支え、そして大会運営を含め、東京2025世界陸上が再び「日本の陸上競技全体の新しい時代」を示す舞台となることを期待したい。大会は13日に開幕する。

▼日本陸上競技連盟(JAAF)特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/tokyo2025/
▼東京2025世界陸上公式サイト
https://worldathletics.org/jp/competitions/world-athletics-championships/tokyo25

“ファイナリスト”髙野進が語る東京世界陸上…「日本陸上が新しい時代に入った」91年の記憶と今大会への期待

取材・文:清水赴也(SPORTS BULL編集部)

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