
1991年の東京世界選手権で日本に初めてメダルをもたらした山下佐知子が、34年ぶり2度目の東京開催に思いを寄せた。「競技に向き合うのはもちろん、応援の力も感じながら全力で楽しんでほしい」。
東京2025世界陸上の開幕を10日後に控えた今月3日、東京スカイツリーのふもとに日本陸上界のレジェンドたちが集結。山下は、前回の東京大会でともに戦った髙野進、有森裕子、山崎一彦らと点灯式に参加し、トークショーに登壇した。当時を振り返り、「沿道の声援はものすごかったはずですが、競技に集中していて記憶がなくて……。ただ、一緒に走った有森さんや海外のライバルのことは鮮明に覚えています」と笑顔で語った。
競技に全力を注いだ山下は、世界選手権女子マラソンで日本勢初のメダル(銀)を獲得。これは1928年アムステルダム五輪女子800メートルで人見絹枝が銀メダルを手にして以来の快挙だった。東京大会で圧倒的な存在感を放ったカール・ルイスからは思わぬ言葉をかけられたといい、「テレビ局で一緒になった時に、『あなたを見ていたよ』と言われたんです。本当かなと半信半疑でしたが、とても印象に残っている出来事です」と明かした。
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山下はまた、34年の歳月の中で移り変わってきた社会や陸上界の姿にも目を向けた。
「私は現役を引退してすぐに指導者になったので、選手と指導者の関係性の変化を強く感じます。多様性を認める時代になり、選手一人ひとりの個性も尊重されるようになってきました」。
変わったのは環境や社会だけではない。陸上選手にとって最大の相棒とも言える“ギア”も進化を遂げている。近年は厚底シューズや最新スパイクが登場し、パフォーマンスを大きく左右する存在となった。山下は「現役時代は素足に近い感覚の、薄くて軽いシューズを履いていました。今は厚底になってきて、着地の当て方など難しさもあるようですが」と語りつつ、「今、自分がジョギングをするなら一度は履いてみたいですね」と笑みを浮かべた。
時代が移り変わっても、変わらないものがあると山下は語る。競技の本質を彩るのは、いつの時代も観客の熱気と選手の情熱だ。「(当時)自分の競技が終わった後、国立競技場で他の選手たちの試合を観戦したのですが、陸上でもこれほど競技場が観客で埋まるのかと驚きました。今回も選手たちは同じような舞台で競技できると思いますし、観戦に訪れる方々にもその雰囲気を存分に味わってほしい」。その願いは、13日に開幕する東京2025世界陸上で現実のものとなるに違いない。
▼日本陸上競技連盟(JAAF)特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/tokyo2025/
▼東京2025世界陸上公式サイト
https://worldathletics.org/jp/competitions/world-athletics-championships/tokyo25

取材・文:成田敏彬(SPORTS BULL編集部)