「ごめんなさい(試合のワンシーン)あんまり覚えてないんです」

試合後のメディア会見で自身を「ただの指導者」「よそ者」と発言する蹴球人、小林慶行。悲願のJ1昇格を僅か3年で(メディアからの見た目で)さらりと成しとげた功績は、ジェフ千葉の長い歴史においても特筆すべき革命の一つだ。

普段の会見や囲み取材とは違い、安堵の表情とサッカー少年のようなまっすぐな笑顔を交えながらのメディア対応。どうしても聞きたかった質問を投げかけた。

笛が鳴った瞬間、ピッチで大仕事を完成させた指揮官は、なにを想っていたのか?小林監督ご自身は覚えていますか?ゲーム内容のように今は忘れてしまいましたか?

「僕は、、、」「僕の目指すサッカーは、、、」

偉業を成し遂げた蹴球人の回答は、いつものようにクレバーで人間らしく情熱的で哲学的だった。どうしてもこの重圧に耐え忍んんだ3年間の最終日の心境を知りたくて質問を繰り返すうちに、たった一言マイクに向かって話してくれた。

「よかった」

笛が鳴った瞬間、沢山の人たちが指揮官・小林慶行の表情に注目していたが、その光景すらも覚えていないらしい。試合後のインタビューやサポーターへのメッセージも記憶が曖昧だったようだ。

ジェフ千葉を率いる小林監督は、時にミステリアスで情熱的である。彼のサッカーを語るには猛勉強が必要なのかもしれない。選手ファーストで常にピッチ内外をプロとして振る舞う「ただの指導者」の練習は非公開、クラブでの取材対応では自身の想いを語ることは少なく、「よそ者」なのに愛情深くクラブとして冷静に俯瞰した言葉をチョイスし、サッカー感を世の中へ送り出す。最初は少しだけ、びっくりするような斬新で激アツな表現も魅力の一つ。

この記事が公開されるころ、歓喜の瞬間から一夜明けた恐らく2025年12月14日早朝辺り。彼がどんな想いでこの朝を迎えているのか?筆者は(この原稿を書いているフクダ電子アリーナのメディアルームで)気になって仕方がない。

この辺のエピソードは、ゆっくりじっくりと小林さんご本人に何度も違う質問で聞いてみたいものだ。

取材・文/鈴木ひとみ(運動通信社)

文:SPORTS BULL(スポーツブル)編集部
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