うれしそう、たのしそう、を探して
(上)うれし荘(下)仲良く並ぶ「うれし荘」と「たのし荘」。
昔、書店で手にしたペーパーバックの箴言集。ブラックユーモア交じりの教訓ばかりなのだが、その一つにこんなものがあった。


「チアガールはどこにもいない」

ページをめくる手が思わず止まった。
そうだ、そのとおりだ。つらい時、苦しい時、その明るさとパワーで励ましてくれる都合のいいチアガールなど人生には存在しないのだ。シンプルな真実に打ちのめされるとともに、やはり困難には果敢に一人で立ち向かわねばならないのだ……と身が引き締まるような、諦めるような、思いがした。本は買わなかったが(買えよ)、その箴言はつらいことがあったときにふと立ち戻る心の定点として、自分の中に常に在る。

しかし、年をとるといろんなことがありがたく思えてくるもので、最近では、家で愛らしくゴロゴロしているネコも、通りではしゃいでいる子どもたちも、私の人生のチアガールなのでは、などと捉えられるようになってきた。
花も陽だまりも、嬉しそうに、楽しそうにしているすべての明るい存在は、我々に平等に与えられたチアガールであり、感謝すべき対象なのだ、などと。

そんなとき、千葉県船橋市に「うれし荘」「たのし荘」というアパートがあると知った。建物界にも人生のチアガールがいたなんて! ということで、ありがとうを言いに、というか単に興味本位で、ちょっと探しに行ってみた。

JR船橋駅から新京成バスで約10分。船橋市夏見、というところの思いっきりバス通り沿いに私のチアガールはいた。し、しかし……。


これがご覧のとおりのオシャレアパートなのだった。ガラスの天窓、タイル張りのクールな外観、コンクリート打ちっぱなしのエントランス。「うれし荘」の文字の下には英文で「APARTMENT HOUSE URESHISOH」。駐車場には「ハイヤー用」のエリアまで!

ちょっと脱力なネーミングゆえか、外階段付きの木造二階建てで、一階には優しいお年よりの大家さんがいて、漫画家を目指して頑張っている学生たちがわいわいと住み着いていて……といったほのぼのとしたアパートをイメージしていたのに、なんかかなり違う。私のチアガールはこんなスノッブなコじゃないわよ! と地団太踏みたくなってくる。完全に個人的な趣味で申し訳ないが。


この「うれし荘」と「たのし荘」、バス通り沿いに並んでいるので、地元ではわりに有名なアパートのよう。通勤バスの車窓から眺めて、思わず微笑んでしまう船橋市民も多いのではないだろうか。ちょっとクールすぎるキライはあるが、やっぱり憎めないチアガールなのであった。
さて、帰るか。(みと)