庁舎で出会った「エレベーターガール」
このイスに昇降手さんが腰掛けて勤務している。張り紙には「お願い 御利用の階数を運転手にお申し出下さい」と書いてあります。
ある取材で、厚生労働省や環境省が入っている「合同庁舎5号館」を訪ねたとき、エレベーターで、
「何階ですか?」
とイスに腰掛けた中年の女性に声をかけられ、びっくりした。
「お役所にエレベーターガールがいるのか!?」

一般に、エレベーターガールというと、白っぽいワンピースやスーツなどを着て、「下にまいりま〜す」と鼻にかかったような調子で言う若いおねえさんのイメージだったので、青っぽい事務服のような制服を着た中年の女性は、なんだか新鮮な感じである。

そこで、ぜひ取材を、と厚生労働省に依頼すると、大臣官房会計課管理室が対応してくれた。

彼女らは実は「エレベーターガール」ではなく「昇降手」と呼ばれており、身体に障害のある方なのだという。そもそものきっかけは……。
「昭和35年に障害者雇用の法律ができ、当時の労働省が雇用促進として始めたものと聞いています」
ただし、いつ始めたものかは、今となってはわからないようで、
「この建物に遷ったのは昭和58年で、旧庁舎のときから昇降手さんは勤務していたようなので、法律ができて間もなくだったのかもしれません」
ずいぶん歴史のあるポストだった。

ちなみに、本来、障害者雇用の国および地方公共団体の「法定雇用率」は2.1%で、それはフルタイムの正職員を対象にしたもの。つまり、昇降手は法律の対象外ではあるが、
「現在では、一般職員に車いすの方や目の不自由な方がいますが、当時は障害者の方の雇用の場はまだまだ限られていたため、お役所から促進しようということで、エレベーターの中の仕事を考えたようです」
とのこと。

現在、昇降手さんは40〜50代の女性3人で、いちばん長く勤務しているのは平成6年からと、ベテランの方だ。勤務体制は、
「赤・青・黄色のエレベーターにローテーションで入るんですが、1人6時間程度で毎日の勤務です」

イスに座る、座らないなどは個人によって違うようだが、一般のエレベーターガールとは異なる雰囲気なのは確か。まわりの反応は?
「合同庁舎に出入りする人は非常に多いですが、プラスマイナス含めて、この昇降手さんたちについての意見や感想は聞いたことがないですね」
ここでは、長い歴史の中で、ごく自然なこととなっているようだ。
(田幸和歌子)
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