先日、不案内の土地でタクシーに乗ったとき、運転手さんに行き先の住所を伝えて地図を渡すと、こんなことを言われた。
「あのねえ……。
こんな地図じゃ、全然わかんないよ。場所言ったらタクシーはどこでも連れてってくれると思いこんでるお客さん、いるんだよねえ、まったく……(ため息)」

確かに、そこは住宅地で目印がほとんどない。
いくつか見た地図はどれもわかりにくく、私自身、初めての土地だったうえ、ひどい方向オンチなだけに、「タクシーの運転手さんなら……」とすがる気持ちで乗車したのだが、いきなりの説教モードに、少々驚いた。

わずかに目印らしき近くの公園の名を伝えてみると、「あのねえ……公園なんていくつあると思ってんの……(ため息)? ときどきさあ、フツウの民家の名前でもわかると思ってるお客さんとかいるけど、まったくタクシーをなんだと思ってんだろうね」
と。
ちなみに、「こんな近距離、フツウ乗らないから、近場はわかんない」とも言われた。

実際、わかりにくい地図だし、近距離で申し訳ないとは思ったのだが、さらに説教は続く。

「カーナビなんて細かいところは全然わかんないし、逆に『こっちのほうが近道だった』とか、『勝手に高速乗った』とかクレームつけるお客が多いから、うちはあえてつけないんですよ」
こちらは行き先の地図を渡し、住所を伝えているのに、地図も調べてもらえない。

結局、自力で行くことに決め、途中でおろしてもらったのだが、ここでふと疑問。
本来、乗客はどこまで準備しておくべきなんだろうか。住所、地図だけでは不十分なの? あるタクシー会社に聞いてみると、
「確かにわかりにくい地図というのはありますが、住所を教えてもらえば、運転手が自分で地図で調べるなりするものです」
とのこと。

さらに、別の会社では、
「地図か住所かどちらかあれば、そこから調べますし、それでもわからない場合は、コンビニやガソリンスタンドで運転手が聞いて、ご案内するようにしています」
との回答だった。
とはいえ、実際、カーナビをめぐるお客さんとのトラブルは多いそうで、クレーム対策としてカーナビをつけない会社もけっこうあるのだという。


また、近年、クレームに多いものとして、「運転手が、女性や年下のお客さんに友達気分で話してしまうこと」という事例もあるのだそうだ。

ところで、こんなことを気にしてしまうのは、近年、無理難題を言ったり、理不尽な要求をする「クレーマー」「モンスター」などのネタが、雑誌やテレビなどでたびたび取り上げられているから。
どの業界を取材しても、「ひどいクレーマーがいるんです」と言う話を聞くだけに、「これってクレーマー行為?」と不安になり、思うところをグッと胸にしまった瞬間もある。
その一方で、タクシーに忘れた携帯や荷物を駅まで届けてくれ、料金など一切請求しないという、親切すぎる運転手さんの話もよく耳にする。

乗客がどこまでやるべきなのか、明確なルールはないけれど、1つだけ確かなのは、クレーム・いざこざは人とのやりとりによって生まれるということ。忘年会などでタクシー利用も増えるこの季節、お互いに気持ちの良いやりとりを心がけたいものです。

(田幸和歌子)