常々不思議な事がある。
コッテリ料理が好まれる大阪の冬の名物が、なぜフグの鍋“てっちり”なのだろうか。


てっちりだけではない。シーズンが到来すればフグの天ぷらやフグ雑炊など、ランチタイムにまでフグが登場。アッサリとした味わいで多くの人の胃を満たす。

大阪湾にそれほどフグが揚がるのか、魚連に伺ってみたところ「まったく無い、と言っていいほどですね」とひとこと。
実際、大阪でのフグの漁獲高は非常に少なく、数字にもほとんど現れないほどで、
「時々底引き網にサバフグが引っかかるくらいです。大阪で食べられているフグは、山口などから取り寄せられたものです」
なのだとか。


では、なぜ山口から遠く離れた大阪でフグがこれほど好評なのか。フグ料理を出す和食屋さんにその理由を伺ってみたが、
「身離れがいいのでせっかちな人には好まれるのかもしれません。それに高級感のあるところも人気のひとつでしょうか」
と、はっきりとした答えが出てこない。
すると、「フグをさばける人が多いので、フグを出しやすいと言うのもありますね」と、気になる言葉が。聞けばそのお店では“ふぐ取扱登録者”の資格を持つ調理人が数人もいるのだと言う。

フグは資格を持っていなければさばけない魚だが、実際その資格については知らない事が多い。

調べてみると、フグの検定を全国に先駆けて最初に取り入れたのは大阪。
一口にフグの検定と言っても、大阪での資格名は「ふぐ取扱登録者」、東京では「ふぐ調理師」、山口では「ふぐ処理師」……と名前が変わり、試験内容も県によって様々だ。
しかもこの資格、受けた県でのみ有効なのだそう。引越しなどで県を変わってしまった場合は申し出が必要であり、県によっては再度資格を取り直さなければならないことも。
一度取れば日本国内どこでも有効と言う資格が多い中、フグの取扱いには厳しい審査があるようだ。

そして県によって試験の内容は異なるが、大体どの県でも“ふぐの処理の業務に○○年以上従事した者”など受験資格が設けられている。
が、大阪の場合、受験資格は必要無し。つまり誰でも受けることができる。
といって試験が簡単なわけでも通りやすいわけでもないが、受験資格が無いだけで受けやすさは格段に違う。
だから魚屋さんなどに有資格者が在籍。そのおかげでどのお店でも美味しいフグが食べられる、そしてフグ好きが増える……とは穿ちすぎだろうか。

資格持ちの調理人の方に資格を取った理由を聞いてみると、単純に「フグが好きだから」。
元々、大阪の人間のフグ好きポテンシャルは高そうだ。

まだまだ寒い日が続く季節、大阪ではまさに今が“てっちり”のシーズン。関西へお越しの際は粉もんではないもう一つの名物、フグを召し上がれ。
(のなかなおみ)