歌舞伎町、ホスト、ナンバー1……。どれをとっても胡散臭い。
「モテモテに違いない」と思うとなんだか悔しく、「悪党に違いない」とすり替えたくもなってくる。だが、そんな憎たらしい!? はずのイケメンが、歌舞伎町で清掃ボランティアをやっているというから驚きだ。ホント~なのか、この目で確かめるべく現場へ足を運んだ。

待ち合わせ場所に現れた手塚真輝さんは、軽く頭を下げて挨拶した後、こちらとあまり目を合わせない。も……もしかして……。「僕、人見知りなんです」とつぶやく手塚さん。そんなホストがいるのか!? ホストというか、フツーの男子のようだ。

フツーといえば、実は、彼の生い立ちや背景もいたってフツーなのである。不良だったわけでもないし、逆にお坊ちゃま育ちでもなく、公立高校から有名私大へ進学。そのまま行けば、卒業後は商社に就職して、サラリーマンになっていたかもしれない。そこから逃げるためにホストになったと手塚さんは言う。大学を中退して歌舞伎町の有名ホストクラブに入店した彼は、あっという間にナンバー1まで上り詰め、やがて独立し、経営者となった。


手塚さんと“ボランティア”が初めて関わったのは、2004年の新潟県中越地震のときのこと。「目立ってやろう」という気持ちだけで仲間と集めた400万円を持ち、現地まで届けた。そんな彼らを待っていたのは、「ほんとうの『ありがとう』」だった。この喜びを従業員にも感じてもらいたくて、彼はホスト仲間と「夜鳥の界」というボランティア団体を作り、歌舞伎町のゴミ拾いを始めたという。その後、友人とともにNPO法人グリーンバード(greenbird)の歌舞伎町チームを立ち上げ、現在も中心メンバーとして活躍中だ。

ボランティア活動を続ける意味を本人に聞いた。

「うーん、カンタンに言うと楽しいからやってる。僕、基本的に楽しいことしかやらないんです。仕事も、遊びも、ボランティアも、全部自分がやりたいことだから面白い。ときには嫌なこともあるけど、嫌なことも含めて楽しいと思えばいい。でも、意味がないと思うことはやりませんね。たとえば、ゴミ拾いしたからって歌舞伎町からゴミはなくならないかもしれないけど、僕らが活動を続けることで、『ポイ捨てはよくないんだ』って気持ちを持ってもらうことはできる。
僕らがここにいることは意味があるんです。それを、ホストの仲間たちにも感じてほしくて、みんなにも活動することを勧めています」

自らの可能性を追求し続けている手塚は、昨年末、初の著作本を出版した。「『そんなことできるわけねぇ』って疑っていた従業員に『やればできるんだ』と伝えたかったから」と、いたずらっ子のような顔で微笑む。タイトルはずばり、『自分をあきらめるにはまだ早い』。ご想像通り、かなりアツい、ど真ん中ストレートの内容だ。

自分じゃなくても誰かがやる。
できあがったシステムの中で
自分はただ歯車になるだけだ。
そんなヤツは歯車にもなれやしない。
(中略)
俺が担ってるんだ。
そう思えるヤツにしか結果は出ない。
背負うか背負わないかは自分次第。
どんな場所でもどんな小さなことでも、担うことはできる。


手塚は「どんな仕事でも、一生懸命に担うことが日本をよくすることにつながる」と言う。それが、日本を担うことになるのだ、と。ちっぽけな自分が日本を担うなんて、爽快なことじゃないか。きっと、その気持ちがあるから彼は気負わずにボランティアを続け、ホスト業界で働き続け、日本を担っているのだろう。

最後に、彼の本より、とっておきのメッセージを……。

趣味は「生きる」ことです。
死ぬことも選べます。
(中略)
僕は今日も生きるスイッチを押しました。
選んで押しました。
僕は今日も生きます。

「今さらムリだ……」と、自分をあきらめるにはまだ早い。もうひと踏ん張り、今日も明日も生きるスイッチを押そう。

(塩澤真樹/C-side)
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