屋台の人気商品にベビーカステラがある。

このベビーカステラのことを、「ベビーカステラは外がフワフワで中がトロトロ。
シュークリームみたいなものだ」と激しく主張する声を聞いた。
主張するのは揃って兵庫県の明石や網干辺りの人が中心。これはどういうことなのか。

外フワ中トロのベビーカステラ、これはJR明石駅前に店舗を構える夢工房さんの“福玉焼”、これのことだった。
この福玉焼、見た目はごく普通のベビーカステラと同じ。

しかし驚くべきはその柔かさだ。
触るとフワッ。中を割ってみると真ん中がトロトロのクリーム状で、口に入れるとフワフワトロトロの新食感。
中にクリームでも仕込んでいるのかと思いきや、実はこのトロトロ部分も生地なのだそう。

店長さんが言うには「生で食べても大丈夫な生地を使い、強火で表面だけを焼いています。中だけ半熟になるよう焼くのがコツです」。あっさりと言うが、これ相当に難しい。


型は通常のベビーカステラの物に似ているが、異なるのは型に生地を落とす時間だ。
数十個もある穴全てに生地を落とす、これにかける時間は平均10秒程度。それ以上かかると最初に入れた生地が膨らんで、中トロにならないのだと言う。
木の枝を使って生地を穴へと素早く落とし、そして勘だけで焼き上げる。まさに職人技のお菓子なのだった。

この福玉焼が生まれたのは戦後まもなく。
まだ砂糖や小麦粉なども高価だった時代、現代表者の祖父がリアカーを引いて売りに出たのが始まりだと言う。
闇市などで砂糖や小麦粉を売ったほうが儲かる時代に、あえて新しい名物を生み出した先人は偉大だ。

「明石にある恵比寿神社のお祭りに屋台を出すことが多く、その福に授かれるよう福玉焼と言う名前にしました」
と言う代表者。
お祭り以外でも食べたいと言うファンの声により数年前、明石駅前にも実店舗を構えた。が、本職はもちろん今でも屋台の販売。
販売地域は昔から兵庫県の明石、三木などを中心にしており、お祭りなどに屋台を出すそうだ。


ちなみにこの中トロタイプ、明石では福玉焼き、海向かいの淡路島に渡れば“ピンス焼き”、長田では“玉子焼き”と、ごく狭い範囲で名前が異なる。さらに中がトロトロではないものの、姫路ではベビーカステラのことを“松露焼き”と呼ぶなど、兵庫県内で非常に細かな分類を見せる。
そんなことからも「ベビーカステラの生まれは関西、兵庫なのでは」と言われているそう。

サッと食べられる気軽さが受けたのか、はたまた粉もの文化のせいか。丸い形に引かれるのか。ベビーカステラは関西で好まれる傾向にある。

その中でも福玉焼を中心とする中トロのタイプは関西でも独特。
「近場の大阪でも、中が焼けてない、生焼けやで。など言われることがあります」と、この正体を知らない人からは注意を受けることもしばしば。
そういったこともあり、今の販売範囲は兵庫、それも明石を中心にしたごく狭いエリアのみに限られているそう。
思えば明石名物である明石焼きも外はフワフワ中身はトロトロ。こう言った味が好まれる地域なのかもしれない。


ちなみにこの福玉焼き、できたてはトロトロ、冷めればネットリカスタード調。さらに余ったものを油でサッと揚げれば、また違った食感になって面白いと言う。

これからの時期には、明石の桜、花見祭りなどに参加予定。お花見しながら外フワ中トロ、なんていかがでしょう。
(のなかなおみ)