話題の映画、『アリス・イン・ワンダーランド』。この連休中に観にいったという人も多いのでは? 私はまだなのだが、観に行く前にルイス・キャロルの原作を改めて読んでみようかな、と本屋に行ってみた。
ディズニーのアニメーションや、子供向けの絵本などでは昔から親しんでいたアリスの世界。しかし、キャロル独特の言葉遊びのおもしろさは英語で書かれた原文で読んだ方がより楽しめる……というのはよく言われるところ。と言いつつ、ちゃんと最後まで読み通せるかいまいち自信が……と思っていたところ、こんな本を見つけた。

英語で書かれた原書の魅力をわかりやすく解説してくれる新書、『謎解き「アリス物語」』(PHP新書)。たとえば、最も有名な「終わらないお茶会」の場面。なぜ、お茶会がいつまでも終わらないのかにはちゃんと理由があったのだった。

マッド・ハッター(帽子屋)とアリスの会話に、不思議の国での時間(time)は、Timeと大文字ではじまる固有名詞として表現されているので、(概念としての時間ではなく)「時漢」として人並みの扱いをしなければならない、というくだりがある。ところが、帽子屋がコンサートで下手な歌を歌ったときに、ハートのクイーンが「He's murdering the time!(帽子屋が韻律を乱し拍子はずれの歌を歌っている)」とけなす。それを聞き付けた時漢が、この進行形のmurderを殺人未遂の「帽子屋が時漢を殺そうとしている」と文字どおりの!? 意味に捉えて機嫌を損ねることに。以来、時漢は6時のお茶の時間のまま動かないので、お茶ばかり飲んでいなければならない……というワケ。

版元の株式会社PHP研究所に問い合わせてみたところ、『不思議の国』に比べて『鏡の国』が知られていないことから、長年アリスを研究している稲木昭子・沖田知子の両氏に、両方を盛り込んだ新書を書いていただいたとのこと。

また、本書によると元々『不思議の国のアリス』の原案は、1862年の陽光が降り注ぐ夏の日、舟遊びのつれづれにアリス・リデル(当時10歳)というたった一人の女の子のために語られたお話だったという。
お金や名誉のためではなく、小さな女の子を喜ばせたい、楽しませたいという一心でつくった物語だったからこそ、今なお子供はもちろん大人をも魅了するエヴァーグリーンな作品になり得たのかもしれないなぁ……としみじみ。たゆたう小舟の上で、目を輝かせてキャロルの話に聞き入る小さな女の子の姿が浮かんでくる。

ところで、個人的に最もぐっときたのは、2つのアリス物語を結ぶ巻頭詩と巻末詩の紹介。詩の中でアリスは、夏の日の思い出の中のただひとりの夢の子(the dream-child)と詠われ、巻末詩ではその楽しかった夏の日を懐かしんで、「この人生は夢、夢、夢(Life, what is it but a dream?)」と終わる。
(余談だが、現実のアリスとキャロルの関係を描いて80年代に公開された映画に『ドリームチャイルド』というのがある)
キャロル自身のアリスへの永遠に届かない想いと相まって、なんとも切なく、そして美しい……。この詩だけでも英語で読む価値はあるかも!? 観る前に読むか、観てから読むか? アリス入門編としてもおすすめの一冊だ。
(まめこ)
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