“クモ”というとあちこちで目にする丸い網を張るあのタイプを想像すると思うが、みなさんは“ジグモ”(地蜘蛛)をご存じだろうか? 田舎育ちの筆者は子どものころ、校庭の花だんや家の庭先など、とにかくあちらこちらでジグモの袋状の網を見つけては、友だちと引きぬいて遊んでいた。

「そういえば最近あまり見かけないような気が……?」と思い、世田谷区内のアパートの庭を見てみたら、ジグモの“袋”をふつうに発見。
「絶滅」なんて話も聞かないし、存在して当然なのだが、おとなになるにつれて遠い存在になりがちなジグモについて、この機会に少しご紹介したいと思う。

ジグモは「節足動物門クモ形綱クモ目ジグモ科ジグモ属」に属するクモの一種。体のサイズは10~20mm程度と小さめで、色はダークブラウン、袋状の網の中に住んでいる。石垣や塀、木の根元などにくっついていて土の中へのびている、細長く、薄汚れた袋を発見したら、それはジグモの網である可能性大。袋の先をもって破れないようにそっと引き抜くと、袋の中にジグモが入っていて、わりと簡単につかまえることができる。袋にダンゴムシや小さな虫が触れると、袋の中からかみ付いて毒を注入し、袋の中に虫を引き込んで餌にする。
ジグモは、虫が袋に触れたときの振動を敏感に感じとって、獲物かそうでないかの判断をするのだそうだ。

ジグモにはおもしろい習性がある。ジグモの体を曲げて牙(きば)をジグモの腹に当てると、自分の腹を切り裂いてしまうのである。この習性から「サムライグモ」や「ハラキリグモ」などと呼ばれることもあるのだそうだ。

ジグモのことを簡単に説明するとこんな感じだけれど、チョット気になることがある。袋は、穴にしっかりフィットするようにして地面の中に埋まっている。
この袋、一体どうやって作っているの? 地面の上であらかじめ作ってから、掘った穴に埋める? それとも、先に穴を掘って、袋の底から自分を包み込むように長い袋を地上に達するまで作っていく? ……クモの研究をしているせきね みきおさんに聞いてみた。

「ジグモは、地面の少しくぼんだところを選んで網の袋をつくります。逆立ちをして穴を掘り、砂つぶを外へ運び出します。そして少し掘ったら、逆立ちをした状態でおしりを上下左右にふり動かし、糸の膜を穴の壁に張りめぐらしていきます。この“穴を掘って穴の壁に糸膜を張る”という地道な作業を、何度も何度もくり返します。そうしていくうちに穴はだんだん深くなり、糸の膜は筒型(つつがた)になっていくのです。
気が遠くなるような作業ですね。完成までには数日かかる、という観察結果もあります。そして完成したら、最後に袋の表面に砂つぶをつけます。これはカモフラージュのためでしょう。なお、大きなジグモは、太い袋をつくります」

そうだったのか。そんなに一生懸命つくった袋なら、引き抜いて簡単に破ってしまった過去が非常に悔やまれる……ごめんなさい。
ところで、獲物を巣の中に引き込むと袋に穴があくと思うのだが、それはどうするのだろう?
「穴はきれいに直します。捕まえた獲物に麻酔(ますい)をして、袋の奥に運んだ後、上に戻って穴の修理をするんです」

使い捨てない感じが、実にエコである。もっとも、手間ひまかけて作った袋を一度で使い捨てていたら身がもたない。ちなみにこの袋を使った捕食方法、ほかのクモの網と「待ち伏せ」戦法という点では同じだが、ジグモの袋はかなり控えめに木や壁に張り付いているため、あまり効率は良くないもよう。それが原因か、ジグモは飢餓(きが)に強いことでも知られているそうだ。
(堀口麻琴/プロップ・アイ)