「寝ている人に祝いの言葉はNG」不思議な禁忌や験担ぎだらけの台湾・旧正月を体験してみた
正月独特のなぞなぞが付いた灯篭

じつは筆者は、昨年から台湾での生活を始めた。当然だが日本と異なる独特の禁忌や縁起が台湾には多くあり、それがまた面白い。
先日過ごした旧正月もいろいろなルールが存在して、新年早々驚きの連続だった。

台湾の風習は、日本の文化を通して見れば変わったことのように映っても、現地では土地に根付いた大切な決まりごと。せっかくなのでそれら新年の面白い習慣を、台湾人の知人などに聞きつつまとめてみた。


正月に寝ている人を呼ぶ&祝いの言葉をかけるのはNG


新年、台湾では人を起こすときに注意が必要だ。名前を呼んで起こしてはいけないからである。もし名前を読んで起こすと、その人が一年間、他人からいろいろなことを催促されて過ごすことになると言われている。

さらに正月は、寝ている人に新年の祝いの言葉をかけてもいけない。
祝いの言葉とは「新年快樂(あけましておめでとう)」「心想事成(願いごとが全て実現しますように)」といったような言葉のこと。新年に交わされる縁起のいい言葉であるが、まだ寝ている人が祝いの言葉を言われると、この一年の健康運が下がると言われている。
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入口に飾り付けられた新年の祝いの言葉

つまり「あけましておめでとう、さっきー。正月なんだから早く起きなさい!」なんて親や夫(妻)に起こされたら、台湾的にはもうダメ。


正月の初詣は早い者勝ち


日本では年が明けると神社やお寺に初詣に行く。もし混んでいたらどうするか。普通は整列して、お参りの順番を待つのが一般的だ。
しかし台湾では「搶頭香(チャントウシャン)」と呼ばれる少し荒々しい方法で参拝する。
「寝ている人に祝いの言葉はNG」不思議な禁忌や験担ぎだらけの台湾・旧正月を体験してみた
初詣で賑わう台湾の寺院

まず大晦日の夜は寺院の扉を閉めてしまい、夜12時にあらためて「よーいドン」で扉が開く。すると火のついた線香を早く供えようと待ちに待った人混みが一斉に走り出すのだ! 新年早々、兵庫・西宮神社の福男選びの神事よろしく、激しい競争を繰り広げる。

群衆が急いで走るため、当然事故は絶えない。転んだり、踏まれたり、誤って線香の火が他の人に触れてやけどしたり、服が燃えたり、灰が目に入ったり、とにかく至る所で何かが起きる。過去には勢いあまって、重さが200kgもある線香を立てるための香炉が倒れ、寺院建築物の損傷を招いたこともあった。
一番乗りした人はその1年幸運に恵まれるという縁起担ぎのため、みんな必死なのだ。

なかにはズルをする人もいて、2011年には門の中にいた関係者と思われる男が突然走りだし、門の外で待っていた人を差し置いて一番乗りをした事件がメディアを賑わせた。


正月はランタンに吊るされた「なぞなぞ」を解く


台湾では、猜燈謎(ツァイタンミ)と呼ばれるランタンフェスティバルが正月に行われている。じつはこのイベント、元々は何千年もの間中国の伝統だったが、現在は台湾や上海など一部だけにしか残っていない。
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ランタンフェスティバルの様子

そんなツァイタンミだが、じつはランタンの美しさを愛でるだけではない。高く吊り下げられた赤い提灯の下には、それぞれ、なぞなぞ(パズルカード)が吊るされて、正月にはそのなぞなぞを説くのが台湾流だ。

どんな、なぞなぞが吊るされているのかというと、「問題:72時間を表す漢字は? 答え:晶(24時間は1日、72時間は3日間なので日という漢字が三つ並んだ「晶」という文字が正解)」「問題:山の上にまだ山がある漢字は? 答え:出」といった具合だ。



正月はベジタリアンになれ


正月初日の朝食は、葷食(くんしょく)という肉・魚などの動物性食品を食べてはいけないとされている。普段肉食の人も基本的には肉は食べない。元々「最初の月の最初の日はベジタリアン(素食)」という考え方が台湾にあり、厳格な人は正月に限らず毎月一日は菜食主義を実践している。素食には肉、魚、卵や乳製品、更に五葷(ごくん)と呼ばれる食材(ネギ、ニラ、タマネギ、ラッキョウ、ニンニク)も一切入っていない。

この風習は、本来は仏教などの宗教的な教えに従って生み出されたものだ。昨今、台湾の世間で認識されている素食は「殺生しない」ことが大原則。動物性の食材(乳製品もNG)は一切使わない。
そして儒教の教えに則るならば、「素食を食べる機会が増えるほど、無用な殺生が減る」ということになるそうだ。
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台湾のベジタリアンショップの入口

他には大昔、お粥は貧乏な人の食べ物だったため、初一にお粥を食べるとこの一年貧乏になってしまうという考えから、お粥も食べないという人もいる。


正月は魚を食べるが、あえて残す


正月は、死、喪失、病気、辞退など、不幸なことを言うのを避けるべきだとされる。子供がうっかり汚い言葉を口にしてしまったら、大人がすかさず「童言無忌(子供の言葉に悪意がない)」と言って訂正する。不幸な言葉は1年を通してその言葉を言った人を不幸にすると信じられて、不幸な言葉を口にすることを避ける文化があるからだ。

反対に、良い言葉で縁起を担ぐこともある。魚(ユー)と同じ発音の「余裕、有り余る」という意味を持つ餘(ユー)をかけて、魚料理を食べる人は多い。
しかし全てを食べてはいけない。出された魚を全部食べきらないことで有り余る財産が手に入るという考えから、あえて魚を残すこともあるのだ。
「寝ている人に祝いの言葉はNG」不思議な禁忌や験担ぎだらけの台湾・旧正月を体験してみた
正月に売られている魚

金運を呼び込む方法は、他にはひょうたんの中国語の発音が官、公務員を意味する福禄と同じ発音であることに縁起を担ぎ、ひょうたんを灯篭の下にぶら下げることもある。多くの種が取れるひょうたんは、子沢山を願う意味があるからだ。


正月はお年玉を枕元に置いて寝る


台湾でお年玉(壓歳錢:ヤースイチェン)は魔除けになると信じられている。なぜお年玉が魔除けなのかというと、こんな逸話があるからだ。

昔「祟(スイ)」という妖怪がいて、大晦日の夜に子供を襲うことになっていた。子供の頭を撫でると、子供は泣き、病気になり、そして元の頭が良い子供は馬鹿になるとされ、当時多くの両親たちはこの妖怪を恐れていた。

大晦日の夕方、老夫婦は「祟」が出るのではないかと心配し、8枚のコインを使って息子と夜遅くまで遊んだ。息子が疲れて眠っているとき、老夫婦は赤い紙袋に8枚の硬貨を入れて息子の枕の上に置いた。それから間もなく、老夫婦は護衛しながら眠りに落ちてしまい、「祟」が忍び込んだ。「祟」が少年の頭に触れようとすると、赤い袋に入った8枚の銅貨が光り、偶然にも「祟」を怖がらせた。

翌日、この噂は村中に広がり、それ以降、大晦日の夜、長老たちは銅貨を赤い封筒に入れて子供たちの枕の下に魔除けとして置いたので、「祟」は現れず子供たちはよく眠ることができたそうだ。

「祟」と「歳」が同義語であることは偶然の一致だが、枕元に置かれるお金はヤースイチェン壓歳錢と呼ばれ、「祟」に壓力(ヤーリー:圧力のこと)を与える魔除けのお金のおかげで子供が育つ(歳をとることができる)と信じられている。
「寝ている人に祝いの言葉はNG」不思議な禁忌や験担ぎだらけの台湾・旧正月を体験してみた
中華圏のお年玉紅包


正月は洗濯も入浴してはいけない


お正月初日と初二(2日目)は、家族の祝福と富の恵みを洗い流してしまわないようにという意味から、入浴、髪の毛の洗い、服の洗いを避けるべきだとされている。ゴミを捨てたり、床を掃いたりすると、財運が逃げてしまうとも考えられ、ほうきを使ってゴミを掃除したり捨てたりすることも基本的にダブーだ。

どうしても掃除しなければならないときは、外側から内側に向けて掃除をする。少しでも財運が逃げないように気をつけるためである。
(さっきー)