「あー、この餃子が食べてみたい」
NHKテレビ小説「ゲゲゲの女房」を観ていたとき、餃子が出てくる度に思っていました。朝っぱらにも関わらずです。
そのくらいドラマに出てくる餃子は美味しそうでした。

そんな願いを叶えてくれる本が出版されていました。その名も『ゲゲゲの食卓』。水木しげる夫人である武良布枝さんが実際に作ってきた、家族との思い出の詰まった料理が紹介されています。もちろん、あの餃子も掲載されています。

担当編集の方に伺ったところ、布枝さんは最初「私がレシピの本を出すなんて恥ずかしい……」と謙遜されていたようです。「布枝さんはお料理家ではありませんから、ラインナップは一般的な家庭料理です。でも、普通ということが重要。飽きのこない家庭の味が、本当は食卓に一番大切なのではないかと考えています」

ということで、一体どんな味なのか作ってみました。本当はあの餃子を作りたかったのですが、冷蔵庫の中身と相談して断念。その代わり「もやし、きゅうり、たまごのごま酢あえ」と「焼き飯」を作りました。有り物ですぐに作れるのは、嬉しいポイントです。


出来上がったのは、薄味の優しい料理。故郷にいる母親の料理と似ている気がして懐かしくなりました。こんな風に家庭の味を思い出させてくれるのは、「家族への愛情が詰まったレシピだからでは?」と勝手に解釈しています。

「おもしろく感じたのは、一家が赤貧時代に食べていた金欠レシピですね。例えば、パンの耳を肉ダネに混ぜたロールキャベツやハンバーグ。赤貧時代を脱した後、ステーキやグラタンが朝食として出されていたというのも、一家のユニークな部分を感じるエピソードです」と教えていただいたとおり、一品一品に家族とのエピソードが添えられています。そのどれもが微笑ましいものばかり。

「布枝さんの、家族のためにまだまだ頑張りたいという想いと、ほっこりとした優しさを出来るだけ盛り込んだつもりです」と、編集時のことを振り返ってもらいました。十分、伝わってきました。

89歳の水木しげる氏は今年5月に連載をスタートさせ、精力的に活動されています。「それも布枝さんの料理のお陰なんだろうなあ」と二人の関係をうらやましく思うのでした。

次こそは餃子作りに挑戦してみます。
いやいや、水木氏の大好物のロールキャベツも捨てがたいところです。
(上村逸美/boox)
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