東日本大震災が起きて以来、“節電”というキーワードが頭から離れないのは皆さん同じだと思う。
だからこそ、今こういった物が脚光を浴びている。
株式会社有紀(福島県会津若松市)が開発した『オートドアゼロ』は、電気を使わずに開いたり閉まったりする“電気不要の自動ドア”。

……って、どういうドアなのか? もちろん、ドアの前に立って開くのを待つのは通常の自動ドアと同様。すると、ドアの前にある踏み板が約2センチほど沈み込む。そして、「グイ~ン」と扉がオープン。はい、いらっしゃいませ!
実はこの自動ドア、電力ではなく“人の重さ”の力を採用しているんです。原理は、まさに“てこ”。まず踏み板の上に立つと、その重さでシーソーのようにドア下にあるピンが上がる。するとドアの中のレールが滑り、その力でドアが開くという按配。「踏んだ力」が、そのまま「開く力」となるわけだ。

そんな『オートドアゼロ』が特許を取得したのは2009年(日本、韓国、ドイツ、イギリス、アメリカにおいて)。そして、初めて店舗で活用されたのは2010年。当初の開発の目的は、以下のようなものだった。
たとえば衛生面に気を付けるべき病院内で、院内感染を防げるようドアに触れずに開閉するため。もしくは学校の保健室や在宅介護などが行われている自宅内で、手をケガしていたり誰かをおぶっていてもドアが容易に開くように。結果、発売してからの2年間で販売台数は4台ほどだったそうだ。
そして、2011年に起こった東日本大震災。それ以来、この自動ドアが果たす“節電率100%”機能が図らずも脚光を浴びることとなった。現在は飲食店やサービスエリアなどを中心に約30台の『オートドアゼロ』が全国で普及しているという。

もう一度、このドアを採用することで生じるメリットを整理したい。
・電気がいらない
・災害に強い
・衛生的(触れずに開くので、病院内での院内感染を防ぐ)
・電磁波が出ないので、病院等に最適
そして、もう一つ。皆さんも経験が無いだろうか? 自動ドアの前に立っても、なぜか作動しないという瞬間。ああいう不具合が起きない。ということは、逆に考えると踏み板に乗らなければドアが作動しないのだ。要するに、ドア周辺に余計なスペースを取らないで済む。
出入り口付近に棚などを設置しても、それを察知してドアが開閉してしまうということがない。省スペースにも役立つわけだ。

そして、『オートドアゼロ』には新たな機能も加わり始めている。巷の自動扉には、こんな物もあると思う。お店に入ろうとして自動ドアの前に立つ。おっ、開いた。と同時に、自動ドアの上部から聴こえる「いらっしゃいませ」の声。あれを、人の重さによって実現したそうだ。これは、「株式会社有紀」とコラボした「株式会社ブラザーエンタープライズ」による技術。
「一人の重さで約0.3ワットの電力を生み出すことができるのですが、これはLEDが20個点灯するくらいのパワーです。もちろん、体重が重い人だとより高い電力が生まれます」(「株式会社ブラザーエンタープライズ」・担当者)
この原理は、「いらっしゃいませ」の声以外にも活用できるという。例えば、災害時。
周囲は電気が止まり真っ暗な状況だとする。しかし、この自動ドアの周りだけは人の重さによってLED光を放射。この場所を、何かの目印にしても良いだろう。“電気不要”だからこそ、成し遂げられた技術だ。

そして、もう一つ。『オートドアゼロ』は4月26日にオープンする高層複合施設「渋谷
ヒカリエ」でも採用されている。設置されているのは、地下2階のベビー休憩室内・授乳室出入口扉と、地下2、3階にある従業員用トイレ出入口。
特に刮目していただきたいのは、地下2、3階にある従業員用トイレの方だ。このフロアは、俗に言う“デパ地下”。惣菜屋も多くあり、特に従業員は衛生面に気を付けていただきたい売り場である。だからこそ、トイレ内も工夫。洗面台には蛇口が3つ(水、石けん水、消毒液)あり、3段階で徹底的に手を洗浄することが義務付けられている。


用を足し、手を洗い、トイレを出る。……実は、このくだりが面白い。「水の蛇口で手を洗い、次に石けん水の蛇口。そして最後に消毒液の蛇口によって、手を洗浄」、この一連の流れを行わないとトイレの扉が開かない仕組みになっているのだ。消毒液の蛇口を使わないと、いくらドアの前に立ってもロックがかかっており扉は開かない。
このシステムは、当然“世界初”である。このトイレの『オートドアゼロ』はマグネットで扉が閉まっており、そこに電気を通すことで強力なロックがかかる。しかし手を洗うと通電が外れ、トイレから退出することができる仕組みになっているそうだ。

そんな『オートドアゼロ』についてのお問い合わせは、株式会社有紀にて受け付けられている。価格は、設置費などすべて込みでおよそ100万円程。

なるほど。これからの時代にこそ、こんな機能が重視されていくのではないでしょうか?
(寺西ジャジューカ)
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