赤鬼は人間と仲良くしたいのだけど、里の人間たちは怖がって赤鬼を相手にしてくれない。
しかしそれ以降、青鬼は姿をくらませてしまう。赤鬼が自分といる場面を人間が見てしまうと、元の木阿弥となる。要するに、自ら身を引いたのだ。それを知った赤鬼は、自分の青鬼への甘え、そして犠牲の大きさを知って大泣き……。
確か、こんなストーリーだったと思う。正直、今書いてるだけでウルウルしてきました。私の最初の読書体験と言っていい絵本です。
そして今、こんな絵本が話題となっている。風濤社が1980年に発売した『絵本 地獄』(税込み1,575円)が、32年越しのリバイバル人気を博しているそうなのだ。
内容は、千葉県安房郡三芳村延命寺に所蔵される十六幅の絵巻をもとに構成されているらしい。
ページをめくると、それはもう恐怖の連続で! 大人の私でも恐い。眼前に、むごたらし過ぎる地獄絵図が、これでもかと展開されるのだ。
登ると体が切り破られる「死出の山」。渦を巻いて流れ、波間には大蛇が口を開けて待ち、川底には剣が立ち並ぶ「三途の川」。体を刻まれる「なます地獄」。繰り返し繰り返し体を煮られる「かまゆで地獄」。他にも「火あぶり地獄」、「針地獄」、「火の車地獄」と、正視できない光景が次々と……。
実は1980年当時、世間では少年による自殺が社会問題となっていた。それを抑止する目的で、この絵本は制作されたそうだ。
「この絵本の制作には私の父が携わっております。父には『自分の子供の頃は戦争で食べるものもなく、生きるのに必死な時代だった。
この絵本を読んだ子供たちが、「死ぬのは恐いことだ」と強く心に刻む。それこそが、当時の同社による悲願だった。
そして、21世紀。なぜここに来て、『絵本 地獄』が話題となっているのか? なんとこの絵本、突如として『ママはテンパリスト』(集英社)なる人気コミックに取り上げられたみたいなのだ。しつけに困った作者が「悪いことをすると地獄に落ちてしまう」と息子に思わせるよう、書店で『絵本 地獄』を購入。結果、読み上げるだけで息子は大号泣し、順調な子育てが可能となった。……というコミックのストーリーが話題を呼び、絵本の人気も一気にうなぎ登りに。
「当社の絵本が掲載された『ママはテンパリスト』4巻は昨年の11月に発売されているのですが、それからの反響は予想以上でした。ここ数カ月で、『絵本 地獄』は12万部を売り切っています」(高橋社長)
ちなみに、1980年から昨年までの『絵本 地獄』実売は11万部だったそう。どうですか、この遅咲きっぷり! 32年分を、たった数ヶ月で超えてしまっている。
では、この絵本の購入層について。きっと、発売当時とは変わっているんだろうな。
「最近は、やはり“子育てママさん”による購入が増えているようです。あとは、おじいちゃんやおばあちゃんが『今の子供たちは、こういう絵本を読んだことがないだろう』と、お孫さんに買ってあげるケースも多いです」(高橋社長)
実はここ数年、ヴィレッジヴァンガードにおける定番書籍として『絵本 地獄』は展開されていて、特に夏の納涼シーズンに若者を中心に人気を博していた。
「と言っても、年間に150~200冊という販売数でした。『ママはテンパリスト』が、『絵本 地獄』の新しい活用法を示してくれたと思います」(高橋社長)
そんな『絵本 地獄』、現在は帯に『ママはテンパリスト』作者・東村アキコ氏による推薦イラストが描かれている。東村氏が「うちの子はこの本のおかげで悪さをしなくなりました」と、涙を流しながら息子さんを抱いている1コマである。いやはや、そんなに効き目があったのですか……。
ただ、子供たちも怖がるだけではない。
「一度『絵本 地獄』を読んで泣き出したお子さんも、その後『また、あの絵本読んで』とお願いしてくるケースが多いみたいなんです」(高橋社長)
単に、トラウマを与えているだけじゃなかった。子供たちは、その幼心でメッセージを受け取っているようだ。
「お子さんも年齢によって感じ方が変わってきますし、読み聞かせるお母さんも感情移入する箇所が毎回違ってくると思います」(高橋社長)
色んな形で感じ、受け取ってもらいたい絵本です。
(寺西ジャジューカ)