「今の季節だと、栗きんとんなど栗を使った和菓子の注文が多いです。栗が持つ甘みと香りがフランス人に好まれるようです。わらび餅も人気があります。西洋人は餅の食感が苦手だと言われますが、実際にフランスで出してみたところ、その食感がくせになって次回からも注文されるお客様が多いです。わらび餅にまぶされた、きな粉の香ばしさも好まれる点です。みたらし団子の注文も多いですね。これは醤油の焦げた風味がフランス人の味覚をそそるようです」(菓子職人 村田崇徳さん)
和菓子と言えば抹茶が外せない。意外にもフランス人は、抹茶に苦戦するかと思いきや問題なく飲む人が多いという。またフランス人は、香ばしさという理由で、緑茶と玄米茶のどちらかと言われたら玄米茶を選ぶそうだ。一方で苦手な和菓子は何だろうか。
「あんこです。特にぜんざいは、ほぼ日本人のお客様しか注文しません。なぜなら日本食にあまり触れたことのないフランス人にとって、豆は塩味というイメージがあるため、あんこのように豆が砂糖で調理してあると違和感を覚えるのです。日本人が、米を牛乳と砂糖で煮て作るリ・オ・レ(ライス・プリン)に慣れないような感じでしょうか。よって、例えばあんこを使うどら焼きの場合、フルーツやフロマージュブラン(フレッシュチーズ)を添えて、あんこの食感を和らげます。すると、あんこが苦手なフランス人のお客様もお召し上がりになります。あとは上用饅頭が苦手ですね。あんこが入っているということもあるのですが、上用饅頭にはすり下ろした自然薯を使います。芋をお菓子に使っているということが第一印象を悪くしています。上用饅頭の白さも華やかさにかけるため、選択肢から外れる理由になっています」(同)
「和楽」はまだオープンから1年目。最初から洋菓子の特徴を取り入れた商品を提供すると、誤った和菓子のイメージをフランス人に与えることになるため、奇をてらったものはメニューに加えていないという。また日本らしさの中にある良さを伝えるためにも、まずは伝統の味を中心に勝負しているそうだ。
「最近ではフランス料理店やパティスリー、パン屋など、多くの料理人が日本食材に興味を持っています。料理人が直接当店を訪れて、色々とたずねられることもあります。和菓子の認知度はまだ高いとは言えませんが、華やかさを是とするフランスの中で、和菓子の落ち着いた繊細さを楽しめる雰囲気を少しでも広げようと思っています」(同)
シャンパンと和菓子を合わせたメニュー展開や、子供向けのお菓子教室も開くなど、和菓子を広める工夫も色々している。文化が変われば味覚も変わる。日本の伝統を守りつつ、和菓子はフランスで羽ばたこうとしていた。
(加藤亨延)