青木ヶ原樹海と聞くと、どんなイメージを抱くだろうか? 方位磁石が狂うから一度入ると出てこられない……なんてウワサもあるから、明るいイメージを持つ人は少ないかもしれない。

だが実は、大自然の神秘や生命力を感じられるパワーに溢れた場所なのだという。
しかも、一部には遊歩道もあって、一般の人でも入ることができると聞き、先日、晩秋の青木ヶ原樹海に散歩に行ってきた。

といっても、さすがに一人で散歩するのは不安。今回は、青木ヶ原樹海ネイチャーガイドである谷内さんに同行してもらった。

樹海の遊歩道はいくつもあるが、今回は野鳥の森公園の南側にある入口からスタートした。うっそうとした森林は入ると少しヒンヤリ。遊歩道は枯葉で一面をおおわれていて、歩くとカサカサと音がするほど。
すでに葉の落ちつくした木も多かったが、緑の葉を残す草木もそれなりにあった。岩にしがみつくように根を張っていたり、幹がひょろひょろ曲がっていたり、独特の形の木々も多い。単純な森林浴の清々しさというよりは、思わず自然の神々しさを感じてしまう場所だ。

ところで、そもそも青木ヶ原樹海って何だろうか? ガイドの谷内さんいわく、青木ヶ原樹海が誕生したのは今から1,000年以上も昔のこと。
「富士山の北西に広がっている原生林で、広さは30~40平方キロメートルあります。山手線の内側とほぼ同じですね。
富士山の中腹にある長尾山の噴火によって流れ出した溶岩流のうえに形成されているのが最大の特徴です」
溶岩上原生林としては日本最大級だという。

ちなみに「樹海」と呼ばれるのは、上から見ると緑の海のように見えるから。もちろん、西暦864年の噴火直後は草木などまったくなかったが、まずは溶岩の穴にたまった水でコケが生まれ、続いてススキなどの草が生え、今ではヒノキやツガ、アカマツなどの針葉樹、さらにはフジザクラなどの広葉樹も共存するユニークな森に育っている。

ところで、冒頭の方位磁石が狂うというウワサは本当なのだろうか? おそるおそる聞いてみると、
「実際にやってみましょうか」
と谷内さん。慣れた様子で足元の枯葉を払うと溶岩が現れ、鞄から取り出した方位磁石をサッとその上に置いた。ジッと凝視する私、動かない針……。
あれ、もしかして都市伝説?
「そうともいえますね」
とサラリという谷内さん。

実は、青木ヶ原樹海で方位磁石が効かないといわれる理由は、この森の表面を覆っている溶岩にある。青木ヶ原樹海の溶岩は磁気を帯びた磁鉄鉱が多く、その磁気が磁石を狂わせることがあるというのだ。谷内さんが磁石付きの杖を地表にあてると、小さな溶岩がたくさんついてきた。
「ここでは方位磁石の針は動きませんでしたが、場所によっては針がズレることはありますよ。さすがにグルグル回り続けることはあまりないと思いますが……」
また、磁石を溶岩にかなり近づけなければ、狂うことはほぼないという。

「たとえば、地面に地図を広げて、その上に磁石を置いたりすれば、場所によって針がズレることはあるでしょうね」
なるほど、まったく根拠がない都市伝説というわけでもないようだ。

そんなふうに聞くとなんだか不安に思う人もかもしれないが、きちんと整備された遊歩道を歩いている分には迷う心配はいらない。ただ、これからは雪が降るシーズンでもあり、遊歩道もわかりにくくなるので、できれば町公認の青木ヶ原樹海ネイチャーガイドツアーに参加したほうがいい。樹海を熟知したガイドの説明を聞けば、その魅力もよくわかるし、何より安心だ。定時ツアーや予約ツアーがあり、先日紹介した「河口湖オルゴールの森美術館」でも利用者を対象にした早朝のネイチャーガイドツアーが予約可能。ちなみに一年中ツアーは催行されており、冬には雪に残る動物の足跡が観察できることもあるという。


霊峰富士の麓に広がる青木ヶ原樹海。おそらく多くの人が思っている以上には明るい雰囲気だし、なにより自然のパワーにあふれた場所。遊歩道から外れるなどの危険な行為をしない限り、安全に楽しめるスポットだ。
(古屋江美子)