子どもの頃、近所のケーキ屋さんなどでよく見かけた記憶のある「たぬきケーキ」。町の「ケーキ屋さん」が次第に消えて、おしゃれな「パティスリー」が増えるにつれ見かけなくなり、昭和遺産的な存在となったものと思っていたけれど……。
ところが、そんな「たぬきケーキ」をこよなく愛し、町の片隅で実は今もひっそり生きている彼らのハンティングに情熱を燃やす人を発見。生息地マップつきの食べ歩きブログを書くほか、最近「たぬきケーキめぐり 青森、岩手編」というミニコミ誌もつくられたそう。

そんなたぬきケーキラバーの名は、松本よしふみさん。ズバリ松本さんにとって、いちばん思い入れのあるたぬきケーキってあるんですか?
「やはり地元・青森にあった『レザン』というケーキ屋さんのたぬきケーキです。地元はほんとに小さな町で、ケーキを買うにも選択肢があまりなく、我が家で買うケーキはほとんどこの『レザン』でした。そのため、私の中でケーキの味はこの店が基準になっています。
以前はたぬきケーキはこの店オリジナルの商品だと思っていましたので、他府県でも作っていると知った時には驚きました。そこで、他にどこで売っているのかと調べはじめたことが、ブログをはじめるきっかけになりました」

「レザン」は2012年10月に閉店されたとのことで、残念ですよね……。ケーキ職人さんが高齢化してお店を閉めたり、代替わりしたためラインナップから消えてしまったり、ということもままあるようですが、これまで訪れた中で心に残っているエピソードなど何かありますか?

「たぬきケーキは1個ずつ成形しなければいけないので『作るの大変じゃないですか?』と訊ねると、どこのお店でも『大変だけど子どもたちが喜ぶからやめられない』という答えが返ってきます。ほんと1箇所、2箇所じゃなく、いろんなお店で同じような話を聞くので、うまく説明できないですけどケーキ屋さんの意義を感じた一方で、こういったケーキ屋さんがある町・商店街は幸せだなぁと思います」

昔は子どもの数も多かったから、遊びにきたお友達にふるまったりする機会も多かったのかもしれませんね。そういえばブログを拝見してふと思い出したのが、神保町にある「伯水堂」のプードルケーキ。少女マンガ「ハチミツとクローバー」に登場したとかで今や女子に大人気ですが、実はこれもたぬきケーキの仲間で、元は子どもたちのためにつくられたものだったのかな……と思いました。
最後に、ミニコミ誌「たぬきケーキめぐり」の件ですが、QRコードまでついていてすごいです!今後も出していく感じでしょうか?

「データ・写真が集まれば出したいと思っています。関東編とか……。ほんとは全国めぐりたいんですが、時間もお金も無いので地道にめぐって行けたらと思います」
拝見したところ、職人さんによって本当にいろんな表情があって感動しました!もしかしたら、つくった職人さんにどこか似ていたりするのかもしれませんね。衝撃的だったのは、ショートケーキの上にたぬきの顔だけが乗っているものや、ストロベリーチョコのメスと共につがいになっているものなど……。売り切れ時には「タヌキ 山に帰りました」と書いた貼り紙をしているお店があったりと、ほのぼの感がたまりません。

なお、松本さんによれば、たぬきケーキは昭和42年には存在していたそうで、昭和30年後半~40年前半生まれではないか、とのこと。
製菓の本に載っていたのでそれを見てつくったという職人さんもいるそうだが、その発祥については謎に包まれている。味については、昭和の頃はバタークリームが主流だったのが、近年は生クリームを使うお店も多くなっている模様。

呼び名も「たぬき」「ポンポコ」などお店によってさまざま。たぬきというのは欧米には生息していないのでドンピシャな英語やフランス語がなく、アナグマを意味する「ブレロ」や「バジャー」などとつけているお店もあるそう。欧米にルーツを持つ洋菓子でありながら、日本で独自の進化を遂げた存在といえるかも……。あなたの住む町にある昔ながらのケーキ屋さんにも、たぬきケーキがひっそり生息しているかも。
絶滅危惧種といわれる彼らを次世代に伝えるためにも(!?)見つけたらぜひ捕獲してみてほしい。(野崎 泉)