最近、カラオケランキングに全く知らない曲名・アーティスト名がズラズラ並んでいると、きまって「ボカロ」だという。
また、中学生などにハマッているものを聞くと、全く知らない「ボカロ」の名前が並ぶ。

「ボカロ」とは、「ボーカロイド」のことで、もともとはヤマハが開発した音声合成技術のこと。その技術を使った製品を「ボーカロイド歌声ライブラリ」と言い、「初音ミク」などはその一種だ。
2007年に登場した「初音ミク」が大人気ということ、ツインテールのキャラだということなどは一応知っているし、「鏡音(かがみね)リン」「巡音(めぐりね)ルカ」などの名前も聞いたことはある。
でも、今、ボカロは一部のオタク的人気ではなく、かなり一般的人気になっているらしい。

テレビでもやっていないし、新聞や一般誌には載っていないのに、10代の子たちはどこで「ボカロ」に出会い、どこに惹かれるのか。
7月13日に発売されたオールボカロ系コミック誌『COMIC@LOID(コミカロイド)』編集部(安達薫編集長、小松大輔さん)に聞いた。


「昨夏に、ボーカロイド関連のイベントで来場者200人くらいにボカロに関するアンケートをとったところ、10代の小中高生が3割程度で、いちばん多かったのは20代前半から20代中盤でした。その層は5年前、当時高校~大学生くらいのときに初音ミクのブレイクでボカロにハマッた人たちで、ボカロが常に10代の心をつかんでいるということがわかりました」

ボーカロイド製品は、海外メーカーの製品が2007年以前からあったが、日本では音楽関係者などへの浸透に留まっており、「初音ミク」がパッケージに女の子のキャラクターを採用したことで、爆発的ヒットにつながったそうだ。

10代の人たちの「入り口」はいくつかあるが、メインは「ニコニコ動画」だと言う。
「今の10代の人たちは、幼いときからインターネットに親しんでいる世代。また、中高生はお金もあまり持っていなくて、行動範囲も広くなく、地元密着の生活が多いため、インターネットが外の世界とつながる大きな存在になっています。特にニコニコ動画は、いろんなコンテンツがあって面白く、何時間も見てしまうので、お金をかけずに時間を過ごせるという魅力があるのだと思います」

テレビで育った世代は、習慣として「つけっぱなし」できる受動的なテレビのほうがラクだが、今の10代~20代は、より能動的に時間を過ごしている傾向があると言う。

「ニコニコ動画」以外の入口として挙げられるのは、You Tubeや、ツイッター、最近はLINEなど。友人・知人の口コミや、小学生などの場合は「ゲームセンターの『太鼓の達人』で誰かがボカロ曲をプレイをしたのを見て、曲やキャラクターを覚える」というパターンもあるらしい。

では、ボカロをどのように覚え、どこに興味を抱くのか。
「ニコニコ動画内に、『ボカニコ』というボーカロイド専門ページがあり、ランキングや新着を片っ端からチェックする人は多いです。ボカロの曲を歌ったり、演奏したりする『歌ってみた』『演奏してみた』も人気で、そこから入る人もいます。人気の歌い手さんというのもいるんですよ」
人気の歌い手さんは、たとえば「赤飯(せきはん)」さん、「そらる」さん、「96猫(くろねこ)さんなど……。
ボカロのイベントもたびたびあり、1000人~2000人収容の会場が満員になる盛況ぶりなのだと言う。

ボカロは、人間が歌っていないところに面白みがあるのだろうに、生の人間が歌う「歌い手さん」たちの魅力はどこにあるのか。
「もともとボカロは人間が歌う用に作られていないので、音域も歌いづらく、早口言葉など、かなりトリッキーなものが多いんです。そうした難しい歌を歌えたら、スゴイ!ということ。音ゲーに近い感覚ですね。それに、歌い手さんにはトークなどステージング力が巧みな方や、キャラクターが魅力的な方がいらっしゃるのも、10代の女の子が夢中になっている理由だと思います」
また、テレビアニメとの違いは?
「短い時間で、音楽とイラストと動画を楽しめることでしょうか。
観て聴いて、コメントして、どこかの誰かと一緒に楽しむ共有感があることが10代などにウケているのだと思います」

大人にはなかなかわからない「ボカロ」の魅力。
それは単に音楽でもなく、キャラクターでもなく、「新しいコミュニケーションのかたち」なのかも。
(田幸和歌子)