スウェーデンで「不快な食べ物博物館」が開館 うじ虫チーズや羊の目玉など展示
食用されるフルーツコウモリ Photo Credit: Anja Barte Telin

人は「おいしい食べ物」が好きだ。しかし、自分が「おいしい」と思っているものは、他の人から見たら「気持ち悪いもの」に見えるかもしれない。


スウェーデン南部の町マルメに「不快な食べ物博物館(Disgusting Food Museum)」が期間限定で開館した。世界各国にある「気持ち悪い」と感じる食品を集めた博物館だ。2018年10月31日から2019年1月27日までの、水曜から金曜に公開されている。

展示品は日本の納豆、塩漬けニシンの缶詰シュールストレミング、熟成にうじ虫を使うイタリアのチーズ、カース・マルツゥ、モンゴルの羊の目玉のジュース、特有の臭気がある果物ドリアンなど。納豆を例に取っても、日本国内においても、それを「おいしい」と感じるか「気持ち悪い」と思うかは、地域や人によって好みは大きく変わる。オーストラリアからはベジマイト(イースト菌抽出物から成る発酵食品)などが選ばれているが、筆者のオーストラリアの知人にベジマイトが同博物館に展示されたことを言うと、「嘘でしょ! 大好きなのに」と悲鳴をあげた。


この風変わりな博物館を立ち上げたことには、一体どのような経緯と背景があったのか。不快な食べ物博物館の学芸員サムエル・ウェストさんと博物館ディレクターのアンドレアス・アーレンスさんに聞いた。
スウェーデンで「不快な食べ物博物館」が開館 うじ虫チーズや羊の目玉など展示
アーレンスさん(左)とウェストさん(右) Photo Credit: Anja Barte Telin


不快な食べ物を取り寄せすぎて金欠に


――「不快な食べ物博物館」を立ち上げた経緯を教えてください

ウェスト 以前、「失敗博物館(筆者注:心理学者でもあるウェストさんが開いた、スウェーデン南部ヘルシンボリ市にある世界の失敗したサービスや作品を展示している博物館)を立ち上げたときに、このユニークなアイデアを思いつきました。現在、肉の生産が環境的に持続不可能になってきています。代替のものが必要ですが、実験室で育てられた肉を食べることを人々は懐疑的に思うでしょう。だからと言って、現代の多くの人はタンパク質を取るのに昆虫を食べることを、とても嫌がるはずです。どういうものが人に嫌われているのかを研究すれば、持続的なタンパク質資源を提供できる方法について、知る助けになると思いました。


アーレンス サムエルとは古くからの友人で、彼のおかしなアイディアを聞くのには慣れていました。しかし、私はハイテク業界から身を引きたいと感じていましたし、有意義な変化を求めていたところでした。それで、彼のアイデアを実現させようと考えたのです。

研究者、グラフィックデザイナー、インターンとチームを組み、コンセプトを一緒に考案していきました。研究はどんどん広範囲になっていき、公立ルンド大学(筆者注:スウェーデン南部スカニア州ルンド市にある)と提携して行いました。世界各国から対象の食品を取り寄せたんです。
おかげで私のクレジットカードが大変なことになっています!
スウェーデンで「不快な食べ物博物館」が開館 うじ虫チーズや羊の目玉など展示
抗生物質を投与されているレプリカの豚 Photo Credit: Anja Barte Telin


――展示されている食べ物には臭うものもあると思うのですが、本物ですか?

アーレンス 8割が本物を置いています。いくつかはレプリカで、ビデオだけのものもあります。多くの食品の匂いを嗅ぐことができ、試食も楽しめます。チーズ用に設置している「臭いチーズの祭壇」があるのですが、フランス製のチーズ、ビュー・ブローニュが最も臭いと思います。

――博物館の条件に合う食べ物とは?

アーレンス 第一に、今日でも食べられているもの、または歴史上、重要だった食品である必要があります。単にベーコン味のアイスクリームだとか、変わった味のするものなら良いというわけではありません。
第二に、多くの人に嫌われているものです。好き嫌いは主観的なので、主観的でいいです。そして第三として、興味深いまたは面白いものです。例えば、ジャマイカの「臭う足指のフルーツ」は、見た目は普通ですが、名前が面白いし、注目に値します。
スウェーデンで「不快な食べ物博物館」が開館 うじ虫チーズや羊の目玉など展示
納豆 Photo Credit: Anja Barte Telin



食べ物を通じて理解する「嫌悪感」の源泉とは


――人々がある食べ物を嫌だと感じるのはなぜでしょうか?

アーレンス 「嫌だ」と思うことは文化的であると思います。私たちは育った環境下で食べ物の好みが異なっています。
「嫌い」と思うことは個人的なことなのです。クモを食べることだって、ある人には食欲をそそることでも、ある人にとっては吐き気のすることです。

「嫌い」は前後関係のあることだと思います。多くの人にとって、牛乳は母乳より良いものでしょう。このプレゼンテーションも前後関係の一部です。今や、世界的に有名なシェフが、昆虫を使ったメニューを作ろうとしています。
昆虫料理が最悪な食べ物から上品な食べ物になるかもしれません。
スウェーデンで「不快な食べ物博物館」が開館 うじ虫チーズや羊の目玉など展示
フランスのエスカルゴ Photo Credit: Anja Barte Telin


――嫌いだと考えているものに対して、考え方を変えられると思いますか?

ウェスト もちろん考え方を変えることはできると思っています。私がスウェーデンに移住してきたときに食べた、塩味のリコリス(筆者注:欧米で食べられるスペインカンゾウを使った独特の風味があるお菓子)は本当に最悪でした。でも、今では大好きです。時間の経過とともに変わっていくものだと思っています。200年前、ロブスターは、囚人や奴隷に食べさせていたものだったんです。今ではどうでしょう。ロブスターはとてもおいしくて贅沢品です。

――「嫌悪感」とは何でしょうか?

ウェスト 嫌悪感はあるものに対して、極度に嫌だと感じることです。これまでに嫌悪感は、病気や危険な食品を避けることに貢献してきました。嫌悪感は人間が持つ6つの基本感情(筆者注:他の5つは喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐怖)の1つで、文化を超えて全人類に言えることです。嫌悪感は私たちの生活に大きな影響を与えています。食べ物を選ぶこと、性的な習慣、モラルや法律にも、です。
スウェーデンで「不快な食べ物博物館」が開館 うじ虫チーズや羊の目玉など展示
ペルーでは食用されるモルモット Photo Credit: Anja Barte Telin


――どのような人々にこの博物館を訪問してもらいたいですか?

アーレンス ジェットコースターが安全を保障するように、嫌なものを安全な距離から堪能することができます。このミュージアムは単に食べ物に興味がある、旅行や新しいものが好きといったこと以上に興味をそそるでしょう。人々は、ねばねばのナメクジや血みどろの映画、ひどいものを食べて誰かが吐くときなど、興味を持って見ているものです。不快な食べ物博物館では、世界の食べ物を発見したい人、それが食べられるものかどうか挑戦したい人に来てもらいたいです。
(青砥えれな)