先週、Mr.Children(以下ミスチル)が約2年半ぶりとなるシングル「足音 ~Be Strong」をリリースした。ファンにとっては待望のシングルであったが、この曲では、“事件”と呼べるほどの、今までにはなかったことが起きた。


あるはずの名前がないのだ。

Written By Kazutoshi Sakurai
Produced By Mr.Children

これは、「足音 ~Be Strong」のクレジットである。ほとんどの人はピンとこないだろうが、ミスチルファンであれば、まるで幕の内弁当に梅干がないような、強烈な違和感を覚えるだろう。そう、そこにはあるはずの名前、「小林武史」がないのだ。

小林武史氏は最近だと、一青窈との不倫が週刊誌で話題になっていたが、プロデュースに関しての才能は超一流だ。なにせ、ミスチルがここまでブレイクできたのは、桜井和寿氏の作詞作曲の才能と同じくらい、この人のプロデューサーとしての能力が高かったおかげだと断言できるし、桜井和寿氏も相当の信頼を置いているように見えた。

というのも、レコーディング風景などを見ていると、桜井和寿氏と同じくらい小林武史氏が、音作りに対して影響力を持っていることが分かるし、近年では、Bank Bandとして共に活動していた。

そのため、今までのどの曲も、クレジットは“Produced By Mr.Children&小林武史”だった。

だが、今回のシングルに記載がないということは、小林武史氏が一切関わっていない証明であり、まさにファンにとっては事件なのだ。

ミスチルは過去に「DISCOVERY」、「Q」という2つのアルバムを出しているのだが、これらに関して、桜井和寿氏自身は“小林にプロデュースされるのが嫌だった”時期だったと後に何度も語り、小林武史氏がともかなり距離を置いた作品と繰り返し述べていた。だが、その2つのアルバムでさえも、全曲においてクレジットは“Produced By Mr.Children&小林武史”であった。

今回の「足音 ~Be Strong」、桜井和寿氏はどんな思いで制作したのだろうか。

シングル発表時に桜井和寿氏は、“自分たちにも、新しい風をふかせたくて、気負いすぎたのでしょう(中略)また次の一歩を踏み出せます”というコメントを残し、ファンクラブの会報には、「足音 ~Be Strong」がかなりの難産であり、“オレは一生良い曲を作ることは無理”とまで思ったことを明かしている。
いかに桜井和寿氏が「足音 ~Be Strong」を、並々ならぬ思いで制作したかが分かるだろう。


■20年ぶりの陥落
しかし、そんな思いを持って作ったとしても、結果に表れるとは限らない。ミスチルの「足音 ~Be Strong」は、オリコンの週間ランキングで、ジャニーズのSexy Zoneの前に敗れ去ることになる。週間ランキングで初登場1位を逃したのは、実に1993年の「cross road」以来。ミスチル現象の始まりとなった、1994年の「innocent world」から20年ほど続けてきた記録は、初のセルフプロデュースとなる今回のシングルで途切れるという結果になってしまった。


確かに今回は、週間で約12万枚とミスチルのなかでもかなり低調なものであった。しかし、1位を逃した理由としては、Sexy Zoneが「33種」もの異なるタイプのCDをリリースしたことも大きいだろう(もちろんミスチルは、1種のみのリリース)。

つい先日、椎名林檎が「CDはもうダメ」と発言し話題となったが、反則技ともいえる「33種」の前に敗れたミスチルの心境は、いかなるものだろうか。

■圧巻のパフォーマンスがその答え
さて、そんなMr.Children、2年ぶりに“Mステ”に出演した。このMステの時点で、ミスチルの記録が途切れることはほぼ確実な状況であり、ファンとしては、そんな状況でどんなパフォーマンスを見せるか不安があったことも事実。しかし、そんな不安は杞憂に終わった。


ミスチルが見せたパフォーマンスは、鬼気迫るものであり、テレビでは見せたことがないほどの気迫で、今までのMステでも間違いなくベストに近いものだった。特に、演奏後に必ずといっていいほどお辞儀をする桜井和寿氏が、「足音 ~Be Strong」演奏後ではお辞儀をせず、カメラに向かって睨むような表情を浮かべているほどであった。

この表情やパフォーマンスは、小林武史氏やランキングの問題は関係なく、“純粋にファンに対し、自分たちの音や歌声を届けたい”というまっすぐとした強い意志の表れではないだろうか。
そしてそれと同時に、《舗装された道を選んで歩いていくだけ》をやめた“新しいMr.Childrenの足音”の第一歩であると感じた。

小林武史氏プロデュースから卒業し、ランキングの記録も途切れた新生Mr.Childrenは、今後、どんな足音を立てるのだろう。今まで以上に次回作が楽しみになる、「足音 ~Be Strong」はそんなシングルだ。

(さのゆう)