ここ最近、テレビの人気が落ちてきたと言われ続けている中にあって、テレビ東京の勢いは目を見張るものがある。以前までは、なにか非常事態(例えば総理大臣の辞任とか)があったときに平然とアニメを流し続ける、などとネタ的要素として扱われることが多かった。


しかし、近年では視聴率の面から考えても、実力がある番組が増えている。例えば、「YOUは何しに日本へ?」や「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」、そして特番ではあるが「池上彰の選挙スペシャル」などだ。特に、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」は今や裏番組にあたる「めちゃ×2イケてるッ!」にも視聴率で勝つこともある大人気番組だ。

このように、テレビ東京が多くの人気番組を生み出すことができている理由はなんだろう。この理由について「ケトル Vol.22 2014年12月発売号」(太田出版)を参考に考えていきたい。

■1、大物タレントのスタートの場

どんな大物タレントだって初めはみな新人だった。
もちろん新人のうちは名が知られていないのだから、たとえ本人が強く希望していてもなかなかテレビに出ることはできない。しかし、テレビ東京はそんな"新人"(今でこそ大物だが)たちのスタートの場となっていたのだ。
例えば、タモリのテレビキャリアは「空飛ぶモンティ・パイソン」から始まった。そしてビートたけしも「ライバル大爆笑」が初めてのテレビ出演だったと語る。そして、今や国民的アイドルのSMAPも「愛ラブSMAP!」がテレビの初レギュラーであったし、「あぶない少年3」がドラマ初主演であった。

このように現在、タモリやビートたけしなど大物タレントになっている者には、テレ東がキャリアのスタートだったケースが多い。
まだ無名である新人を積極的に起用することはリスクだが、それらを果敢に背負う姿勢が表れているだろう。

■2、とにかくガチ

テレビ東京にかかせない要素といえば、「ガチ」ということも忘れてはいけない。テレビ業界では、「こういう絵がとれたら」という作り手側の思いや、あまり手間をかけたくないという思いからときに"ヤラセ"をしてしまうことがある。街頭インタビューで仕込みがあったという指摘がネットでされていたり、さらには「ほこ×たて」のように演出が発覚して打ち切りに追い込まれたりしたケースもある。

しかし、テレビ東京はガチな企画が多い。「YOUは何しに日本へ?」では、日本へ来た外国人の都合でロケが急遽中断されたり、一方的に連絡が取れなくなって約束の場所に現れなかったりする。
しかし、それをそのまま放送してしまうのだ。仕込みではなく、ガチンコで来日した外国人を探して交渉をしているからこそ起こることだ。
また、「YOUは~」以外にもガチな演出をしている番組がある。本書内では、伊藤Pと佐久間Pというテレ東が誇る2大バラエティプロデューサーが対談している。そこでは、「ゴッドタン」の出演者であるおぎやはぎや劇団ひとりが、収録に来るまで企画を知らないという話や、「モヤさま」のさまぁ~ずは本当にどこに行くか知らないという話が語られている。同局のあらゆるバラエティにガチな演出がされているのだ。


■3、AKBやEXILE的手法の走りー素人をスターにー

名も知れぬ素人がオーディションで合格、デビューしてからも努力し成長を重ね、やがてスターに。このようなパターンは、もはや今の芸能界では「定番」であり、特にAKBやEXILEのメンバー達もこのような形でデビューすることが多い。
だが、テレビ東京は、このような形式を10年以上も前から取り入れ、何人ものスターを誕生させていた。

皆さんは「ASAYAN」という番組をご存じだろうか。
この番組は視聴者参加型のオーディション番組であり、モーニング娘。やCHEMISTRAY、鈴木亜美などを輩出した。
また、それらをプロデュースする者も小室哲哉やつんく♂など、そうそうたるメンバーであった。この番組では、彼ら・彼女らのオーディションの様子からデビューに至るまでの苦労、そしてそこから紅白出場などを果たしスターに上り詰めるまでを描いて高い人気を誇った。
また、素人をスターにという観点では、ギャル曽根やさかなクンも同局の素人参加番組がきっかけとなり多くのテレビに出演するようになった。

これらからいえるのは、テレビ東京がリスクを背負ってガチに拘り、素人発掘が得意という点だ。

これらの点は、現在、人気番組になっている「YOUは何しに日本へ?」や「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」の演出にも生かされていることが分かる。
それぞれの番組はガチな演出をモットーとしている(その分ハプニングは多く起こるが)し、「ローカル~」では、何をしでかすか分からない蛭子能収を起用するというリスクを背負い、「YOUは~」では、多くの逸材とも呼べる素人の外国人たちを生んできた。


現在、多くの人気番組を生みだしているテレビ東京。それらには昔から培われてきた番組制作におけるスピリットが生かされているといえるのではないだろうか。
(さのゆう)