友人とLINEで新年の挨拶を交わしていたら、見たことのないテイストのスタンプが登場して目を疑った。
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

工事現場でヘルメットをかぶった作業員がケーブルのようなものを巻いており「せーの せーの 大声で号令」というメッセージが添えられていたり、上司に「わかったか」と言われている会社員のイラスト横にでかでかと「さからえぬ」の赤文字が。


思わずスタンプの詳細をチェックしてみると、作者の「seiji tazawa」氏が制作したスタンプが他にもたくさん出てきた。
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

「工事現場の安全促進スタンプ」や「団塊の世代」をテーマにしたスタンプなど、どれも独特のセンスが漂うものばかり。作者である田澤誠司さんの公式サイトにたどりつき、プロフィールを見てみるとそのお年はなんと72歳! おそらく現在最高齢のLINEスタンプ作者であろう。また、あの味わい深いスタンプのイラストはエクセルを使って描いたものだという。

1秒ごとに田澤さんへの興味が湧きだして止まらくなってきたので取材を申し込んだところ、お電話でのインタビューを受けていただけることになった。

52歳からパソコンを独学


【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

――田澤さんのLINEスタンプ、すごく可愛いので私も早速購入して使わせていただいています。ここ数日、ツイッターなどでもすごい反響ですね。


「はい。これまでに27種類(台湾限定バージョンも含めると29種類)作っていたんですが、昨年の暮れまではさっぱりで、もうやめようかなと思っていたんです。それが(2016年)1月2日になってみたらびっくりするぐらいの反響で、最初にツイッターに投稿して下さった方にお礼が言いたいです」

――田澤さんの公式サイトのプロフィールに52歳でパソコンを独学で覚えた、とありました。

「私は日立製作所に勤めておりまして、昨年、71歳で退社しました。そこで電気の分電盤、配電盤などの制作の仕事をしていました。52歳になったときに、現場の仕事を若手に引き継いで、私は書類作りなど施工管理の方にまわりました。
それまでもワープロで仕事に必要な書面作りなどを行っていたんですが、ちょうどそのころ『Windows 95』が出て、これからはパソコンの時代がくると思いまして、当時はまわりにパソコンを使える人もいなかったので独学でコツコツと覚えていったんです。昔のパソコンは動作も遅くて、よく固まったりしたので一日かけて作った書類が一瞬でパーになったりしましたね」

――あのイラストもその独学の中で生まれたのですか?

「パソコンを使っているうちに、あるときエクセルで絵が描けることに気が付いたんです。それでやっていくうちに少しずつ上達してきまして」
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー


エクセルは2003バージョンをあえて使用


――実際には、どんな風にエクセルでイラストを制作していくのですか?

「まずは題材を決めるところからですが、それができたら、ブロックをつなぎあわせるように作っていきます。手なら手、髪の毛なら髪の毛、顔であれば輪郭、目、鼻、口といったものを何種類も作っておいてモンタージュ写真みたいに組み合わせていきますね。手なんかは特に難しくて、色々な手の動きを、画面を拡大したり、絵を回転させたりしながら作っています」
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

――想像しただけでもかなり手間がかかりますね……。WindowsのOSには「ペイントツール」も入っていますが、なぜエクセルで作画しようと思ったんでしょうか?

「なぜエクセルかというと、重要なのが、イラストレーターなどの他のもので描いたイラストだと、もらった人はそれを貼りつけることしかできないですね。エクセルのデータでもらえば、もらった人が簡単に加工して書類などに使いやすいんです」

――なるほど、もともと業務上の書面に使うためにイラストを描かれていたから、書類上で使いやすいというのが大事なポイントだったんですね。


「そうなんです。エクセルで描いたイラストでA3サイズの紙芝居を作って、現場での安全管理の教育用の資料を作ったりもしていました。パソコンについては、家にはMacが1台とWindowsのノートが2台あるのですが、エクセルはWindows XPに入っている2003バージョンが使いやすいのでそれを使っています。それより新しい2013などだと機能が複雑すぎてかえってイラストが作りづらいんです」
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー


孫娘から教えられたLINEの存在


――お仕事以外でも趣味でイラストを制作されていたとのことですが、LINEのスタンプを作るというのはさらにそこからぐっと先に進んだことのように感じます。きっかけはなんだったんでしょうか?

「昨年会社をやめて漠然とした日々を送っていたんですが、今年25歳になる孫娘が私のイラストを見て、『LINEのスタンプっていうのがあるからやってみたら』とすすめてくれました。その時は、LINEがなんなのか、そもそもスマホも持っていなかったので、まずスマホを買って(笑)それで、スタンプというのは申請の手続きがなかなか大変なんです。
代行の業者さんにやってもらったんですがそれが数万円かかってしまって、細かいところを直したりして出るまでに半年ぐらいはかかりました。そのお金がかかってるんで、とにかく元だけは取ろうと(笑)そして2作目からは手続きもすべて自分でして作るようになりました」
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

――孫娘さんの助言あってこそのLINEスタンプだったのですね。

「スタンプ作成は妻と分担して二人三脚で作っています。役割は、まず私が構成を考え、イラストを描いてjpg形式で保存するところまで。妻はそれをjpgからpngに変換して、細かな修正と最終確認をしています。妻はパソコン歴がなく、最初は私が教えながらでしたが、よく付いてきてくれて感謝しています。
スタンプで儲かったら、海外旅行にでも連れて行こうと考えています」
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

――奥様のご協力もあったのですね!それにしても「こんにゃく家族」や「カッパ天国シリーズ」などのキャラクターも独特ですし、「団塊の世代」というのもすごいテーマだなと思いました。

「こんにゃくは、私の住まいが茨城県で、こんにゃくが名産なので、なんとかそれをアピールできないかと思ってああいうものを作ってみました。カッパは茨城県の牛久というところに、駅にカッパがいたりする場所がありましてね、それでカッパでいこうと。団塊の世代は、LINEというのはみなさん平成生まれの人が使っていると思うので、日本にもこういう時代があったんですよと、貧しい時代だったけど、それを踏まえてこれからの未来が伸びていって欲しいと思って、私が若い頃に流行っていたものを絵柄にしてみました」

――ちなみに田澤さんはそのころどんな若者だったんですか?

「GS(グループサウンズ)をやったり、ダンスに明け暮れたりしてました」

――GSですか!ギターを弾いていたんですか?

「いや、タイコを叩いてました。当時、NHKの朝の7時のニュースでイギリスの4人の若者がカーネギーホールで大成功をおさめたなんていうニュースが大々的に報じられていまして、影響を受けましたね」

――若い頃から新しいものがお好きだったんですね。

「新しいことはなんでもやってみる方でしたね。
家電なんかでも何年も前に液晶テレビの27インチが出たなんて聞いて、47万円ぐらいするのを買っちゃったりしました。今だとすごく安いですけど」
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

――田澤さんのスタンプの中には工事現場を題材にしたものも多いですね。

「工事現場の安全管理や注意の喚起などのメッセージを、管理職と作業員とのコミニケーションに役立ててもらうことを目標に作成したんです。使い勝手が悪い、使える物が少ないなどの批判もありましたが(笑)他には、行きつけの床屋さんや、よく行く病院の院長先生の意見を参考に、お客さんや患者さんとのコミュニケーションに応用してもらえそうなものを作るようにしました」

――最新のスタンプは「若者ことば」というもので、「じわる」や「秒」などのフレーズが出てきますがあれは……

「孫娘に教わりながら作りました。普段から『つらたん』などと言われて、一体どういう意味だろうと思っていましたので(笑)」
【エクセルでイラスト制作】72歳のLINEスタンプ作者・田澤誠司さんにインタビュー

普段の趣味はゴルフと写真とパソコンでのイラスト制作だという田澤さん。体を動かしながら、空いた時間はパソコンに向かってイラストを描く日々だとか。ここ最近の反響を受け、現在も新作LINEスタンプを制作中とのこと!内容はまだ秘密とのことで、リリースが待ち遠しい。「来年も"73歳のお騒がせおじいさん"となっているよう精進します!」と力強い言葉もいただき、私も田澤さんを見習ってまだまだがんばるぞ!と力が湧いてくるのだった。
(スズキナオ)

田澤誠司

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