30年以上に渡り、テレビドラマや映画で出演作が途切れることがない俳優・柳葉敏郎。映画『アゲイン 28年目の甲子園』(1月17日公開)では、高校時代に甲子園を目指したものの、ある事件によって断念せざるを得なかった川越学院野球部の元エースを熱演している。
そんな柳葉に、本作の魅力や、俳優人生を振り返ってもらった。

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 劇中で柳葉演じる高橋は、背番号1を付け甲子園球場のマウンドに立つシーンがある。野球経験者ならもちろん、そうではなくても、この状況が“凄いこと”であるのは男子なら想像はつくだろう。特に柳葉自身、大の野球好きであり、草野球チームで活躍しているほどだ。「俺は部活で野球をやっていたわけではないですが、野球というスポーツに育てられた年代。聖地・甲子園という場所で、仕事とはいえマウンドに立てるなんて感無量でしたよ」と笑顔で語る。


 本作で貴重な経験をした柳葉だったが、名優・中井貴一との共演も感慨深いものだったようだ。お互い一線級で活躍してきた二人だが「ガッツリと共演したのは2回目ぐらいかな」と語ると「以前、映画やドラマとは違う形でご一緒させてもらって、その時に彼の男気を感じていましたし、お互いスポーツで培った空気感も似ているなって感じていたんです」と印象を述べる。

 同時に「貴一ちゃん(きいっちゃん)とは同世代だけど、俺が田舎から出てきた時点で、中井貴一という俳優は存在していたんですよね。だから都会の者には負けたくないという存在の一人ではあったんです。そういう人と、いまこの年になって同じ土俵に立っているというのは喜びですよね」と心境を吐露する。

 「負けたくない」という柳葉の思いは、俳優人生を送る上での原動力になっている。
「エキストラ時代には、悔しい思いもたくさんありました。雪の日に集合場所に行ったら、誰もいなくてね。通りがかったスタッフに聞いたら『こんな雪で撮影あるわけないだろ。バカか』って言われたこともありました。『いつか見てろよ!』ってカチンときたことは忘れられないですね(笑)」。
 そんな柳葉から見て、現在の撮影現場はどう映るのだろうか。
「バブルの時代は、分かりやすく言うと、色々なものに対してのお金のかけ方が明らかに違いましたが、逆に今の方が、ものづくりに対してはスタッフも演者も情熱は強いのかもしれません」。若手俳優についても「大人ですよね」と語ると「色々な人に気を使って、監督の思いを一生懸命受け止めようとしている若い役者さんが多い気がします」と評価。

 一方で「俺なんか、若い頃は監督の言うこと聞かなかったですからね。何人かにはさじを投げられたし」と笑い飛ばすと「俺みたいな性格の人間からみると(大人な若手俳優には)ちょっと寂しい気がしちゃうんですけれどね」と胸の内を明かした柳葉。

 「『マスターズ甲子園』という男臭い感じの題材ですが、そこに関わってくる家族や、人間関係を非常に優しく表現している」と本作の見どころを語ると「マスターズ甲子園」の名物となっている、球友、親子、夫婦での甲子園キャッチボールについて「俺は死んだ親父とキャッチボールしたいですね」と即答。

 「親父との最後の約束が『背番号3のユニフォームを買ってやる』だったんです。
使っていない園服に背番号3ってマジックで書いて遊んでいた姿を親父が見ていたらしいんです。でも小学校3年のときに他界してしまってね……」。「マスターズ甲子園」という題材を通して、熱い想いや、友情、家族の大切さ、生きる喜びを再確認できる感動作に注目だ。
(取材・文・写真:磯部正和)