「好きな人ができると、生活も趣味もその人一色に染まってしまう」
このような経験ありませんか?
周りの友人にそのような経験がない人ばかりだと「私だけ!?」と不安に感じている方もいるかもしれません。しかしこの状態、心理学的には十分あり得ます。

ではなぜ恋愛相手の好きなものを好きになってしまうのか、その理由を考えてみましょう。

好きな人のものを好きになる「同一化」
「好きな人の好きなものを自分まで好きになる」という状態、心理学的にはこれを「同一化」といいます。
同一化とはもともと、自分と相手を無意識のうちに混同させてしまい、相手の行動や考え方を自分のものと認識してしまう現象です。
このとき、自分にはない地位や名声の持ち主など、いわゆる「憧れ」の対象が同一化される「相手」となります。そして、この「憧れ」の気持ちから「自分も相手のようになりたい!」という想いが募り、知らず知らずに相手の行動や考えを真似して、それを自分のものと認識していくのです。
「好きな人の好きなものを自分まで好きになる」という状態は、恋愛において同一化が起きている状態と考えられるでしょう。

つまり、相手への憧れの気持ちから、相手が好きなものを「自分も好き!」と思うようになっているといえます。
ところでこのとき、同一化は無意識のうちに起こっています。そのため、「恋愛相手に気に入られるために、あえて好きになろう!」ということではなく(そういう場合もあるかもしれませんが)、「知らないうちに好きになっていた」という感覚の方が近いのかもしれません。

なぜ同一化は起こる?
このような同一化が起こる理由、それに関係しているのが「防衛機制(ぼうえいきせい)」です。私たちには、欲求不満などで社会にうまく適応することができなくなったときに働く自我のメカニズムが存在しています。
これを専門的には「防衛機制(ぼうえいきせい)」といい、「同一化」はこの防衛機制のひとつとされています。

そもそも同一化は自我の発達に関係しているもので、幼少期の同一化の相手は親であるといわれています。成長段階で子どもはしばしば親の真似をしながら、さまざまなことを学んでいきますが、この過程で同一化も行われているのです。
そしてそれを繰り返しながら、自分の内面も成長させていきます。
そして、さらに成長して思春期以降になると、人気歌手やアイドルの髪型や服装をまねしたりすることが増えてきます。これも相手への憧れから起こる一種の同一化といえます。

もうひとつ関係する「類似性の法則」
恋愛における同一化の場合には、「類似性の法則」も関係していると考えられます。

「類は友を呼ぶ」ということわざもありますが、私たちは恋愛に限らず、共通点がある相手を好むという傾向があります。
たとえば、初対面の人でも出身地や趣味など、相手との共通点を見つけられると「この人とうまくやっていけそう」という感じがしちゃいませんか?
恋愛でも同様に、ある調査では「相手を好きになる理由」を自由に答えてもらったところ、類似性や合致性を理由に挙げた回答者が全体の4分の1を占めるという結果が出ました。この結果が示しているように、私たちは知らずしらず自分と似た相手を好む傾向があるようです。
ですから恋愛における同一化は、潜在意識の中で、「相手と似ている好みに近づいて自分を好きになってもらいたい」という意識がはたらいているとも言えるでしょう。

行き過ぎた同一化には注意が必要
ここまで恋愛における同一化についてお話してきました。
同一化は私たちの意識の外で知らず知らずに行われていることです。
そのため、「好きな人の好きなものを好きになる」ということも、それ自体不思議なことでもありませんし、それによって新たな趣味が見つかるといったプラスの面もあるかもしれません。
ただし、何でも行き過ぎには注意が必要です。
先ほどお話したように、同一化は自我にも関係しているため、相手にのめり込み過ぎるあまりに、相手と自分の境界線が分からなくなり自分のことを見失ってしまう恐れもあります。
そうなると極端ですが、違法なことや社会的に問題のある行為に手を染めてしまう危険性も考えられるのです。
日ごろから恋愛でこのような傾向があるなど、自分で思い当たるところがある人は、恋愛においても過度に相手に合わせるのではなく、自分の考えと相手の考えの違い(こちらは同一性と呼ばれます)について意識してみるとよいでしょう。
<執筆者プロフィール>
伊坂 八重(いさか・やえ)
メンタルヘルスライター。

株式会社 とらうべ 社員。精神障害者の相談援助を行うための国家資格・精神保健福祉士取得。社会調査士の資格も保有しており、統計調査に関する記事も執筆。