パワハラ上司に、ゴマすり同僚、無気力部下…そんな“アスホール”(くそったれ社員=イヤな奴)は洋の東西を問わずどんな企業にもいるものだ。しかし、それを組織の宿命と思ってはいけない、と説くのは、組織行動学の世界的権威、ロバート・サットン スタンフォード大学教授である。


 サットン教授いわく、「イヤな奴1人の存在で企業が被る損害額は、人件費は別として、年間最大16万ドル(約1600万円)にも上る」のだという。1人いるだけでも「周囲の生産性は落ち、同僚は辞め、特に管理職にいる場合は、深刻な訴訟問題に発展することもある」ためだ。

 イヤな奴には2つのタイプがあるそうだ。一時的に感情的になりひどい振る舞いをするテンポラリーアスホール。そして政治的計略まで用いて相手を背中から刺す筋金入りのサーティファイド(認定)アスホールである。

「イヤな奴の性格は波及性があるので、周りもイヤな人間になる。
イヤな人間の前では誰でもイヤな人間になるというのは、組織行動論でも実証されている傾向」。さらに、「日中イヤな奴を相手にしていると、夜帰宅しても家族との生活に悪影響を与えかねない。社会倫理的な観点においても、企業はイヤな奴の存在を許してはならない」とサットン教授は説く。

 では、組織からイヤな奴をなくすためには、どうすればいいのか。この点で、大変参考になるとして、サットン教授が持ち上げるのが、「Don't be evil(悪魔になるな)」という有名な社是を掲げているグーグルである。

 時の企業であるグーグルが「社内でイヤな奴をやっても得することはない」という社風を持つ意味は確かに大きそうだ。
「人材獲得競争は世界的に厳しさを増しているが、グーグルが規律あるフレンドリーな雰囲気で優秀な人材を引きつけ、なおかつ急成長を遂げている以上、多くの企業が同様の手法を取るしかない」からだ。「特にグーグルと直接戦っているマイクロソフトやイーベイなどは最近、“The No Asshole Rule”(アスホールの存在を許さないルール)に非常に高い関心を示している」という。

 むろん、才能があるイヤな奴もいる。アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズCEOはその最たる存在だろう。しかしサットン教授は、「ジョブズ氏はトラブル以上の見返りをもたらすことがわかっているわけで、万人に適用すべき評価軸ではない。一般企業において、“えせジョブズ”の存在は百害あって一利なしであることを忘れてはならない」と釘を刺す。
あなたの周りにも“えせジョブズ”はきっとうようよいるはずだ。

(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

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