合併から12年。みずほフィナンシャルグループ(FG)と傘下銀行が、長きにわたり続けてきた「バランス人事」が、いよいよ崩れ始めた。

「32・27・26」──。この数字はそれぞれ、旧富士、旧第一勧業、旧日本興業の出身者の、4月1日以降の役員数だ。対等合併した旧3行が常に覇権を争い、FGと傘下銀行を合わせた役員数の配分で、1人の誤差も許さなかった時期さえある中で、一気に6人にまでその差を広げてみせたのだ。

 佐藤康博・FG社長を中心に練り上げた今回の役員人事は、一見すると、数で最多となり、かつ次期頭取ポストも手中に収めている旧富士勢が、大躍進したようにも思える。

 一方で、役員人事を細かく分解してみると、実は佐藤氏の影響力が残る部分が随所に見られ、銀行経営を林信秀・次期頭取に「禅譲」したとは言い切れない状況が、浮かび上がってくる。

 その様子は、佐藤氏と同じ旧日本興業出身者の配置を見れば、一目瞭然だ。これまで林氏が統括してきた国際部門や、新たに代表権を持つ銀行副頭取、委員会設置会社への移行後に委員会メンバーとなる非執行のFG取締役、委員会運営の要となる取締役会室長、組織の中枢となる人事を統括するグループ長は、4月以降、旧日本興業出身者が占める。

 さらに、佐藤氏自身も銀行の非常勤取締役として、引き続き機関決定の場には必ず参加する。そのため、役員数では旧日本興業が最少となる新たな体制の下でも、佐藤氏のグリップ力は、これまでと大きくは変わらない。

 そもそも、今回の大規模な役員人事は、昨年9月に発覚した暴力団融資問題がなければ、あり得なかった。行政処分に伴う経営権の唐突な禅譲によって、求心力が弱まり、行内が一時的に混乱するような事態を避けたともいえる。

 引き続き、佐藤氏が実権を握る経営体制の中で、今回の人事の一番の焦点は、国内営業の強化に向けた体制づくりだろう。

試される商銀機能の強化

 旧経営陣が、過去に「投資銀行宣言」というスローガンを掲げた結果、国内における預金や融資という商業銀行機能の強化で、後れを取ってしまった、みずほ。

 他の2メガバンクに比べて、国内の収益力も見劣りし、ただでさえ強化に向けた取り組みが急務だ。にもかかわらず、旧日本興業で長年大企業を相手に仕事をしてきた佐藤氏は個人や中堅・中小企業の基盤が弱く、林氏は海外経験が長い半面、国内での営業経験が浅い。

 その弱点を補う使命を、佐藤氏が今回与えたのが、国内営業やリテールに強い岡部俊胤・FG副社長であり、監督当局からも覚えがめでたい飯盛徹夫・銀行常務だ。

 林氏と岡部氏、飯盛氏の3人共に旧富士出身なのは、決して偶然ではない。互いをよく知るこの3人が密に連携して、どれだけ国内強化の道筋をつけられるかで、数では最多となった旧富士勢に対する本当の評価と、みずほ再生の加速度が決まってくる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

編集部おすすめ