■テクノロジーが変える産業構造に大学はどう対応するのか



慶應大生が就職する意外な人気企業や産業とは?の画像はこちら >>

日本を代表する人気の私立大学・慶應義塾大学。「慶應大卒」の学歴や「三田会」で知られる卒業生のネットワークを手にするため、大学入試のみならず、慶應幼稚舎の入試も激戦であることは有名です。

では、慶應大の卒業生はどのような産業、企業に多く就職しているのでしょうか。また、その産業の将来性はどうなのでしょうか。



■はじめに



慶應義塾大学のホームページに掲載されている就職・進路関係のデータのうち「上位就職先企業」から、2016年度の就職先企業についてみてみましょう。以下は2017年4月30日現在のもので、原則として本人からの届出に基づいた内容となっています。この卒業生の中には2016年9月卒業者も含まれています。



また、全学部(文学部、経済学部、商学部、法学部法律学科、法学部政治学科、理工学部、総合政策学部、環境情報学部、医学部、薬学部、看護医療学部)で3名以上が就職する企業の上位20位がユニバースとなっています。

2016年度の全学部の就職者数は4,562名で、うち1,864名は女子です。



就職者数は約4,500人ですが、学部で見るとどの学部が多いのでしょうか。開示されているデータでは、法学部を法律学科と政治学科で分けていますが、この2つをあわせて法学部とすると、もっとも多いのは経済学部の1,021人、次いで多いのが法学部の939人、3番目が商学部の855人となっています。この3学部で就職者数の62%を占めています。



■全学部で就職者数が多い企業とは



では、全学部でもっとも就職者数が多い企業はといえば、2016年度は「みずほフィナンシャルグループ」で141人(うち女子は49人)でした。みずほフィナンシャルグループは経済学部、法学部法律学科、商学部、環境情報学部で就職者数がナンバーワンとなっており、人気の就職先だといえます。



続いて学部卒の就職先として2番目に多いのが、「東京海上日動火災保険」で95人(うち女子は63人)となっています。東京海上日動火災保険は、法学部政治学科で最も多い就職先となっています。



3番目に多いのが、「三菱東京UFJ銀行」で88人(うち女子は41人)となっています。三菱東京UFJ銀行は文学部で最も多い就職先となっています。



第4位が、「慶應義塾大学病院」です。これは看護医療学部の卒業生の最も多い就職先となっているためです。

63人(うち女子は61人)が就職しています。



次いで、第5位が三井住友銀行、第6位が三井住友海上火災保険、第7位が三菱UFJ信託銀行、第8位が大和証券、第9位が東京都と三井住友信託銀行、11位に三菱商事、12位に三井物産、13位が第一生命保険、という順番となっています。



■慶應大の就職先は結局のところ「金融機関」が多い?



全学部の就職者数が多い企業トップ20のうち、銀行、証券、保険などの金融機関の就職者数を合計すると762人で全体4,562人のうち16%を占めています。



トップ20で金融機関と商社以外には、アクセンチュアや日本アイ・ビー・エムといったコンサルティングとIT企業、電通や日本放送協会(NHK)といった広告・メディア、日本航空といった運輸業が含まれますが、やはり産業として見た場合、金融の存在感は突出しています。



慶應大の学生が、入学前から金融機関を志望していたかどうか、また金融機関に就職をすることを目的にしていたかどうかは分かりませんが、結果として、いわゆる文系の学生は金融機関に就職する傾向が強いようです。



また、一口に「金融機関への就職が多い」といっても就職者数に占める女子の比率が高い金融機関も多く、男子学生からすれば必ずしも広き門だとは言い切れなさそうです。



■金融機関は将来安泰な就職先なのか



慶應大を卒業した学生の就職先として金融機関が多いことは分かりましたが、金融機関は果たして将来も安泰といえる就職先なのでしょうか。



現在、FinTech(フィンテック)といわれるファイナンスとテクノロジーを掛け合わせた造語が広く知られるようになりつつありますが、この中には、これまで金融機関で人手がかかっていた作業や業務を機械で置き換えようという動きがあります。



日本を代表するフィナンシャル・グループのトップマネジメントが「テクノロジーを活用することで生産性を引き上げる」とコメントしたことも話題となっています。



決済や貸出、資産運用といった金融機関としての機能がなくなることはないとは思いますが、これまで人が担ってきた領域を機械が代替することは十分あり得ます。



■銀行だけではない。保険会社や証券会社にもテクノロジーが迫る



FinTechという一言で金融とテクノロジーが結び付けられますが、さらに細かく見てみるとテクノロジーの影響を受けそうなのは銀行ばかりではありません。



InsurTech(インシュアテック)という言葉も生まれており、その名の通り保険会社の作業の一部やデータ収集にもテクノロジーが活用されようとしています。



最近はICO(イニシャル・コイン・オファリング)でのトークン・セールスによって、株式ではない資金調達方法も盛んになってきています。ベンチャーキャピタルの出資の仕事や証券会社が主幹事となり企業を上場させることで資金調達を手伝っている作業が失われつつあるのかもしれません。



将来、自動運転が普及し、交通事故の概念そのものがなくなれば、自動車保険の在り方も変わるでしょう。その場合には損害保険会社も今の姿ではないでしょう。



また、FinTechに興味を持っているのは必ずしも金融機関だけではありません。

異業種もテクノロジーを活用して金融領域をいかに取り込めるかに苦心しています。各国によって規制は異なりますが、中国のアリババは傘下にアリペイを有しており、中国でも金融と接点を持つユニークな企業グループといえるでしょう。



■まとめにかえて



いかがでしたでしょうか。金融業界ではFinTechによって雇用が失われるのではという危機感がありますが、それは同時に学生の就職先として見た場合にも、金融機関での就業機会が少なくなる可能性を示しています。今回例にあげた慶應大だけでなく、文系で金融機関への就職に強かった大学にとってみれば、これまでの評価が一変しかねない時代に突入しつつあるともいえるのではないでしょうか。テクノロジーがさらに重要視されるようになれば、今は脚光を浴びていなくても将来にかけては理系学部に強みのある大学が就職に強い人気の大学として大きくのし上がってくるかもしれません。