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混ぜて食べないと哀しみます『銀座ナイルレストラン物語』

2011年10月5日 11時00分 ライター情報:杉江松恋

『銀座ナイルレストラン物語 日本で最も古く、最も成功したインド料理店』水野仁輔著、G・M・ナイル語り/ブルース・インターアクションズ

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第二次世界大戦の戦犯を裁く東京裁判は1948年11月12日に判決が下された。11人の判事のうち唯一の国際法の専門家であるインドのラーダービノード・パール判事は「ある国が他国と戦争をすること自体が犯罪とされたことは史上かつてなかった」という結論に達し、裁判そのものの論理的根拠に異議を唱えた。このことはよく知られている事実だ。では現存する中では日本最古のインド料理店である「ナイルレストラン」の創業者A・M・ナイルが、戦前戦中の日本・満州国の事情に詳しいインド人としてパール判事を助けたことはどのくらい知られているだろうか。
A・M・ナイルは最初から料理店を経営するために来日したわけではない。彼は祖国インドをイギリスの帝国主義支配から解放しようとした革命家だった。当時のインドには非暴力主義を主張するマハトマ・ガンジーらのほかに、武力や経済力によってインドの独立を勝ち取ろうとする団体(後のインド独立連盟)が存在した。A・M・ナイルはその一員だったのである。1928年に京都帝国大学に留学するために来日したナイルは、大学卒業後も帰国せずに壮士として日本に止まり祖国独立を支援する活動を続けた。しかしそれが災いした。1945年に戦争にやぶれて大日本帝国が崩壊し、1947年にインドが独立を果たした後も彼は母国に帰ることができなかった。ガンジーらとは違う道をいったナイルは異端児であり、新興インドには居場所がなかったのである。やむをえず日本に留まったナイルは1949年、東京都・東銀座にインド料理店を開く。それが「ナイルレストラン」である。革命家が料理店の親父になるのかといわれたナイルは胸を張ってこう言ったという。
「インドが独立したんだ。次は私自身が店を通した道端の外交をしながら、自分を独立させるんだ」
『銀座ナイルレストラン物語』は、A・M・ナイルの長男でありレストランの二代目経営者であるG・M・ナイルに著者の水野仁輔が聞き取りを行い、日本最古のインド料理店の歴史を綴った本である。インド料理が日本に定着するまでを綴った食文化史の本であると同時に、ゼロから立ち上がった一家が富と名声をつかむ創業の記である。そしてA・M・ナイル、G・M・ナイルという無類におもしろい人物の評伝でもある。

G・M・ナイルによれば「ラース・ビハリ・ボースとA・M・ナイルが日本におけるインド料理の開祖である」という言説は大きな嘘だという。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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