<「企画がたってる漫画」は企画段階ですでに面白い。「イエスとブッダが四畳半でルームシェアしてる」。
ほら、もう面白いでしょ? これで22文字です。ちなみに企画がたってるとクチコミにものりやすい。人に説明しやすいから>

これは以前、モーニング編集長・島田英二郎氏が「良い企画づくり」というテーマで自身のTwitterで記していたツイートだ。例として取り上げられているのはもちろん『聖☆おにいさん』。うん、わかりやすい! 島田氏によると「企画のいい作品」はひとこと(50字以内)で中身を説明できるということだった。
では、島田編集長は自らの雑誌で連載していたこの作品をなんと表現してくれるのだろう? 自分の文章力・企画力がないことを棚に上げる訳ではないのだが、これまで50文字でこの漫画を説明しようと思っても私にはできなかったのですよ。
何が?って、先月あまりにもさらっと最終回を迎えたサライネス著『誰も寝てはならぬ』です。

「好きな漫画は?」と聞かれたとき、『誰も寝てはならぬ』と言いたいのに躊躇したこと数知れず。好きなのに言えないってもどかしい。でも、「どこが好きなの?」「何が面白いの?」「どんな作品?」と実際に聞かれても、どう説明したものかと途方にくれ、めんどくさくなって結局違う作品を挙げてしまうこともしばしば。『大阪豆ゴハン』の連載終了後漫画界から姿を消していたサラ・イイネスが、心機一転サライネスにペンネームを変更して、でも以前と何も変わらない作風で連載を始めた『誰も寝てはならぬ』はそんな作品。そしてモーニングでさりげなく8年も連載を重ねていたのに、とにかく説明が難しく、本屋でもなかなか置いてないから紹介がしづらい漫画だった。
スピンオフで利休之助が主人公の『猫も寝てはならぬ』が出ていた事なんて知らない読者も多いはず。
これがヤーマダ君くらい図太ければ「知るかそんなもん。おもしれーもんはおもしれんだよ」と言えばいいだけなんだろうし、ハルキちゃんよろしく無垢な人間ならば「ワカリマセーン」とのほほんとして、でも好きであることを隠すこともないんだろうな。ゴロちゃんならなんかウマイコトまとめてくれそうだが。
でも、ギスギスした人間関係や競争に追われる毎日を過ごしたあとに、そんなものとは無関係に仕事をさぼり、ゆるーく生きる「オフィス寺」の面々を見ていると、なんだか癒される気がしていたのだ。現実の世界で成長できない自分が、成長する気もない現状維持な寺のメンバーを見てると救われた気がしたのだ。
いつかこの魅力をもっとちゃんと説明できるようになりたいと考えているうちに、前触れもなくあっさり終わってしまったから、ただただビックリしてしまった。しかも最終回なのに全然最終回っぽくなく。
事前情報で終わるというのは知っていたのだが、モーニングで最終回を読んでもどうにもやりきれない終わり方だった。ヤーマダ君の唐突な「糸魚川行ってきた」は何の補足もなかったし。え、これホントに来週からないの? と思って、実際翌週のモーニングにホントに載ってないのか何度もページをめくって確かめてしまったし。なんか、最後までエエカゲンな漫画だったなぁと思って。


ところが、先日発売された最終17巻を読んで、作品がエエカゲンなのではなく、読み方がエエカゲンであったことを痛感させられました。
唐突に終わったようでその実、ちゃんと「まとめ」にかかっていたのだ。ハルキちゃん、ゴロちゃん、ヤーマダ君をはじめとしたオフィス寺の面々がちゃんと前に進めるように道を示していたのだ。毎週読んでいたハズなのにぜーんぜん気づかなかったよ。
ハルキちゃんは(始まってもいなかった)失恋にケリをつけて前に進み、ゴロちゃんの女性観の根っこの理由がついに判明し、マキオちゃんはご指名で仕事が来るまでに成長し、ずっと男運がなかったネネちゃんにもついに春が訪れ、ヤーマダ君は糸魚川へ向かう。でも最終回だけ読んで全く意味のわからなかったこの「糸魚川旅行」も、最終巻全体を読めばちゃんとワケがわかるようになっているのだ。


それは決して、伏線回収、とかそんな大それたことではない。何も変わらない、いつも現状維持のオフィス寺の日常でもちょっとずつ変化があり、みんなちょっとずつ前に進んでいたのだ。その変化があまりにもさりげなくて、変わっていたことに気づかされていなかっただけで。
でもそれって、誰の人生でもよくあることだと思うのだ。人生にドラマチックな展開なんてそうそう起きないけど、思い返してみるとあそことあそこは繋がっていたな、とか、あれが契機なんだったな、とか、自分だけが気づいたり、もしくは自分ですら気づかないけど隣にいる人だけが気づいてくれるくらいのさりげなさで。

そんな<うっすら右肩上がり>が出来る「寺」の面々は、エエカゲンなようでしっかりとした大人なんだなぁと改めて痛感した。

たぶん、もっともっと見逃していた変化があったんだろうなぁと全巻読み直しを始めた今なら、『誰も寝てはならぬ』という作品をひと言でいい表せるハズ。

エエ年したエエカゲンな大人たちが繰り広げる、ちょっとだけ右肩上がりの恋と仕事とボケツッコミ

うーん、まだなんか違うんだけど… うん、エエという事にしとこか(笑)
というわけで、最後にサライネスさんの次回作への意気込みツイートを引用して終わりたいと思います、ハイ。

<生来の怠け者なんで放っとくとずっとブラブラしてるので。次回作は早い内にやる「つもり」です。書き文字はもう堪忍してください(笑)>
(オグマナオト)