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『人はなぜ〈上京〉するのか』(いつでも地元に戻ってくればいいんじゃなかろうか)

2012年5月1日 11時00分 (2012年5月4日 01時30分 更新)

難波功士『人はなぜ〈上京〉するのか』日経プレミアシリーズ
この100年における「上京」の変化について、新書サイズでコンパクトにまとめた一冊。東京という都市が、人口増加にともない郊外へと拡大を続けていった様子もよくわかる。著者は気鋭の社会学者で、関西学院大学教授。

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この春から進学や就職などで上京し新しい生活を始めたという人も結構いるのではないだろうか。その理由は人それぞれだろうけれども、「夢の実現には東京しかありえない!」「東京で一旗揚げる!」などと勇んで上京したという人はどれだけいるだろう?

難波功士『人はなぜ〈上京〉するのか』は明治から現在にいたる“上京の状況”(なんてダジャレは本書には出てこないが)について、人口動態など各種データのほか、文学や歌謡曲、マンガなど多彩な作品を材料にその変化をたどっていく。

日本が近代化の道を突き進むなかで東京には全国各地から人が集まるようになる。しかし上京の理由はさまざまだ。家の期待を背負い立身出世をめざして東京に出てくる者がある一方で、貧困から故郷を捨てて上京した者もあった。立身出世をめざしての上京、貧困から脱出するための上京はいずれも、終戦直後の第1次ベビーブーム期に生まれた「団塊の世代」あたりまでは一般的なものとして続く。

若者たちを上京に駆り立てた理由はそれだけではない。1970年代以前、東京と地方とのあいだには圧倒的な落差があったという。本書に引用されている作詞家の阿久悠の手記によれば、兵庫県淡路島出身の阿久は上京するまでビルを見たこともなければ、入院以外でベッドに寝た経験を持つ者も周囲にはいなかったようだ。そんな地方の若者たちが、東京に過剰なまでに憧れを抱いたのは当然だろう。

だが少なくとも情報量の格差に関しては、テレビの普及によって埋められていく。交通網の発達、大規模な商業施設の進出などにともない地方都市の“東京化”も進んでいった。ここに《若者がいきなり地方から出てきたとしても、何事も「想定内の東京」として対処可能となる》時代が訪れる。

テレビの普及は一方で、マスコミの東京一極集中を加速させることになる。バブル前後の1980年代にはマスコミ業界に対する「ギョーカイ幻想」が地方の若者たちを魅了し、あらゆるジャンルで《「感性」だけを頼りに世に出ようとする若者たちの上京が生み出されてきた》。このあたりの記述は、90年代半ば、ギョーカイ幻想の残り香に誘われて上京した自分にとっては非常に身につまされるものがある。

とはいえ東京の物価、とりわけ不動産の価格はけっして安くはない。そのことはバブル崩壊後、不況が長引くなかにあって、上京者への大きな障壁となっている。それ以前に、いまや若い世代のあいだでは地元志向が強まり、それまでの世代にはあった東京への憧れみたいなものは薄まっているようだ。
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ライター情報

近藤正高

1976年生まれ。サブカル雑誌の編集アシスタントを経てフリーのライターに。著書に『私鉄探検』(ソフトバンク新書)、『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)。一見関係なさそうなもの同士を関係づけてみせる“三題噺”的手法を得意とする。愛知県在住。

ツイッター/@donkou
ブログ/Culture Vulture

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