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仲間のためなら働ける。喜国雅彦『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』

2012年9月3日 11時00分 ライター情報:杉江松恋

『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』喜国雅彦/双葉社

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漫画家の喜国雅彦さんには今までに3度びっくりさせられた。
1度目はもう何年も前で、氏が古い日本の探偵小説の蒐集家だと知ったとき。「え、『傷だらけの天使たち』の人が?」と思ったものだ。今ではもう有名で、その方面のことを書いた『本棚探偵の冒険』などの著作もある。2度目は氏が走ることにはまっていて、フルマラソンにも挑戦の意図があると聞いたときである。これももう有名か。『東京マラソンを走りたい』という本にもなった(あ、大島渚のことを書き忘れた。各自調査!)

3度目が今回で、書店に行ったら喜国さんの本が出ていたのである。題名は『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』。まずはトップ画像の書影を見てもらいたい。このトイプードルを抱いている男が喜国さん……ではない。これが題名に名前が出ている「シンヂ」なのである。彼は日本と台湾に拠点を持つ土建会社の経営者で、喜国さんの友人だという。
昨年の3月11日、後に東日本大震災と名づけられる大災害が起きたとき、シンヂとその仲間は即座に行動を起こした。現地の状況がまったくわからない中、トラックに積めるだけの物資を積み、一路被災地を目指したのである。たまたまtwitterを始めたばかりだった喜国雅彦(ここからは敬称を略して書く)は、彼らからのツイートによって現地の状況を知った。仲間の言葉ならば信じられる、と考えたからだ。そして、こう考えるようになる。

ーーそして思った。僕の仲間は助けを必要としている。被災地のために何かができる、なんて大それたことは思わなかったが、少なくとも彼らの手伝いはできる。見知らぬ誰かのために働くことは難しくても、仲間のためなら働ける。(後略)

『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』は、そうした気持ちに押され、生まれて初めてボランティア活動に挑戦してしまった漫画家の、ごく個人的な体験記である。
作業に必要だからと鉄の中敷き入りの長靴を買い(釘の踏み抜き事故が多発していた)、漫画家にとっては商売道具ともいえる眼を守るためにゴーグルは特に良いやつを買う。そんなところから始めるのだ。
ゴールデンウィークのさなかの2011年5月6日、喜国はパートナーの国樹由香とともに初めて被災地に入った。仲間のシンヂたちは宮城県東松島市で活動を始めていた。そこに合流し、最初の作業に就く。任されたのは、津波で1階部分が水没した自動車修理工場の洗浄作業である。行き場がなくなったどろどろの水が作業場に溜まっている。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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