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「チョコがないと描けない」「靴下 どうするんですか!」壮絶、手塚治虫の仕事場

2013年1月16日 11時00分

ライター情報:近藤正高

『ブラック・ジャック創作秘話2 ~手塚治虫の仕事場から~』(宮崎克原作・吉本浩二マンガ)
2011年7月に刊行された第1弾に続く単行本第2弾。本書では「別冊少年チャンピオン」2012年7月号~10月号に掲載された4話が収録されている。巻頭には手塚の『ブラック・ジャック』連載当時の「週刊少年チャンピオン」の表紙写真が並び、そのキャプションによればすでに単行本の第3弾も予定されているようだ。

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《高田馬場の赤いきつねじゃなくて 下北沢の赤いきつねが食べたいんです!!》

赤いきつねは関西とそれ以外の地域ではダシが違うそうだけど、さすがに同じ東京の高田馬場と下北沢で違いがあるわきゃないだろ! と思わずツッコミを入れたくなるセリフだが、これが誰のものかといえば、何と“マンガの神様”手塚治虫。

『コブラ』などで知られるマンガ家・寺沢武一は、手塚プロダクションでアシスタントを務めていた頃、ある晩、手塚から赤いきつねを買ってくるよう頼まれる。近所(高田馬場)のコンビニにあるだろうと出かけようとする寺沢を、いったん引き留めて手塚が言い放ったのが例のセリフであった。しかたないので、寺沢はわざわざタクシーに乗って下北沢まで買い物に行ったのだとか。だがなぜ下北沢だったのか、理由はいまもってわからない。

先頃出た『ブラック・ジャック創作秘話2 ~手塚治虫の仕事場から~』(宮崎克原作・吉本浩二マンガ)ではこのほかにも、手塚が原稿執筆中、アシスタントや編集者など周囲の人たちに無茶な注文をして困惑させていたことが、多くの証言によってあきらかにされている。ベレー帽や差し歯をなくして、あれがないと描けないと言い出したり、出張先でも、いつも使っている鉛筆やペーパーボンドがないと言って編集者に現地で探し回させたり。食べ物についても無茶な注文は多かったようで、真冬にスイカを食べたいと言い出したときは、銀座のクラブまでマネージャーが行き分けてもらったという。

ファンにはよく知られているように、チョコレートもまた手塚にとって欠かせない食べ物だった(ぼくが2001年の手塚の13回忌に墓参りへ行ったら、墓前にはやはりチョコがたくさん供えられていた)。マンガ家の松本零士は、高校時代にいちど手塚の仕事を手伝いに行った際、彼が編集者に「チョコがないと(原稿が)描けない!!」と訴える場面を目撃している。

なお松本が手伝ったのは、手塚が福岡の旅館でカンヅメになっていたときで、ほかにも高井研一郎など当時松本と同じく九州在住で、のちにプロとなる高校生たちが臨時アシスタントとして駆り出されたという。そもそもなぜこのとき手塚は福岡くんだりまで仕事を抱えて赴いたのか、『ブラック・ジャック創作秘話2』では、そこにいたるまでの悲喜こもごもも描かれている。そもそもの発端は、雲隠れした手塚をある雑誌の若手編集者が躍起になって探し回ったことにあった。

ライター情報

近藤正高

1976年生まれ。サブカル雑誌の編集アシスタントを経てフリーのライターに。著書に『私鉄探検』(ソフトバンク新書)、『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)。一見関係なさそうなもの同士を関係づけてみせる“三題噺”的手法を得意とする。愛知県在住。

ツイッター/@donkou
ブログ/Culture Vulture

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