原画集自体は他にも色々なところが出してはいるのですが、個人的に一連のシャフトの原画集に対するこだわりに興味を持っていました。
原画を載せれば原画集。そのとおり。でもなにか違う。
以前も、『魔法少女まどか☆マギカ KEY ANIMATION NOTE』シリーズが発売されたのですが、その時にも並々ならぬこだわりを感じ、驚いていました。
OPの走るカット40P!『魔法少女まどか☆マギカ KEY ANIMATION NOTE vol.1』(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
今回は、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ KEY ANIMATION NOTE extra 始まりの物語 永遠の物語』という題名で、映画版「まどか☆マギカ」前編・後編の原画集です。
そのページ数370ページ近く。1ページに載っている原画は基本2枚で、とにかく大きい。
そもそも「原画集」ってなんで見るのか?って話ですよね。
絵が見たいなら実際に彩色された、完成形のスクリーンショットを見た方がいいはず。
しかし違うんですよ。
アニメーションは「動き」です。動きを見るには、生身とも言える、直接手で描いた線を見る方が断然いい。
動き指定、色指定、これからアニメーターがフィルムという器に魂を注ぎ込む工程が見えるのが、原画なんです。
一言で言うと、原画集は紙に動きを印刷したものなんです。
まどかの原画集シリーズはこの部分をとても大切にしており、掲載されている原画はほぼすべて、一連の流れの固まりでの掲載になっています。
たとえば杏子がダンゴ食ってる、比較的重点の置かれないシーンがあるのですが、これもちゃんと動きを掲載しています。ダンゴがモチモチ柔らかそうな上に、食べ方で彼女の個性が出ているのが、いいんだ。無頼風の彼女の性格が、ダンゴでわかる。
また、動きのシーンでは筋肉にどう力が伝わっているかも見て取れます。これはコメントを見るとわかるようになっているので、是非確認してみてください。
劇場版まどかの目玉と言えば、やっぱりひとつは変身シーン。
この変身シーンは漏らすことなく動きを紙に投射し、収めています。おそらくスクリーンで見ていたのと感じがちょっと違うはず。新しい発見が出てくると思います。
ちょっとずつコメントも入っているのですが、それを読むと「ハッ」とさせられます。
「寺尾:魔法少女の変身シーンはどこからどこまでが現実のシーンなのか」
ハッ! そう言われてみれば、どこなんだろう? アニメを見ている分にはどっちでもいいんですけど、原画を描く人にとって見れば「虚」なのか「実」なのかで描き方自体変わりますから重大な問題です。
これをおさえながら、マミさんの変身シーンが掲載されます。ステップしている脚までは、見えている「現実」。そこから先、スカートの柄が浮き上がっていくところからは「イメージ」。
魔法少女好きならこの原画見ていてワクワクするはず。
この本は、基本的に「関連イラスト集」「OP」「まどか」「マミ」「さやか」「杏子」「ほむら」でページ分けされています。
見ると一発でわかるんですが、マミさんと杏子のページが、圧倒的に多い。
なぜこんな偏り方になったのか!? というのは映画を見た人ならわかりますが、ここはコメントを引用しましょう。
「劇団イヌカレー:みんな大好き、マミ祭り。劇場版ではわっしょい感がよりエレガントに盛られています。もうエヴリタイムこわくない。」
わっしょい感! 理解オオ理解。
この原画集をペラペラめくるだけでも、マミ祭りのわっしょい感をすぐに感じられます。
色や背景の演出はもとより、動きやガジェットそのものがマミ祭りなんです。
ではもう一つ、なぜ杏子が多いか。
杏子は実は大幅に動きが追加されたキャラです。映画を見てすぐ気づいた人も多いはず。
特に変身するときの、三節棍槍アクションのダイナミックさは、スクリーンの迫力で見て楽しめるように、思いっきり修正されています。
実際にはあまり見ない三節棍槍。その動きがびっちり詰まっているので、量が多いのです。
実に変身シーンだけで47ページ使ってます。こんなに動いてたんだ。
あとはなんといっても、……これは個人的な思い入れなのでアレですが、杏子がオクタヴィアに向かうシーン。
何度見ても背筋がゾワゾワしてしまうのですが、祈りを捧げてから立ち向かいささやく流れ。
どの層にもおすすめできる本ですが、このかっこよさはマミ祭り級。杏子ファンは見ないと損です。
この本自体マニア向けではなく、まどかが好きなあらゆるファンに手にとってもらうために作られた本です。
無論、動きがかなり細かく載っているので、原画好きにはたまらないのは間違いないでしょう。
でもそういう本は実際色々あるわけです。まどかもすごいアニメですが、他にもすごいアニメはたくさんあります。
じゃあ何が違うのか。
手にとって見て、本として、原画やアニメの知識がなくても感動できる作りになっていることです。
黒の遊び紙二枚が表紙の後に入っているのですが、それをめくったところにあるのが、まどかが産まれたばかりのパパとママの銀色印刷された原画。後ろはまどかとほむらが寄り添って座っているシーン。
って、それほんと反則だから!
カバーをめくると、OP「ルミナス」で手をつないだほむらとまどかのカット。
そのルミナスの原画パートでのまどかとほむらのじゃれあいはアニメでは一瞬だけど、原画集ならほんとコンマ1秒以下の世界の表情を見ることができます。
コメントは最小限ながらも、確実に目からうろこを落としてくれるものばかり。
紙質にもこだわっており、非常に絵が見やすい。
どこを見せ、どこを削るかをしっかり把握し、ストーリー順ではないけれども読者が感情を揺さぶられる本。
非常に「本」を作ることへのこだわりが強い原画集なのです。
確かにでっかいし、値段も安くはないです。
でも単なるコレクターズアイテムではなく、「読んで楽しめる」「眺めてうれしくなる」本として、まどか原画集シリーズのラストを飾ってくれました。
いや、ラストではないかもしれませんね。次の映画が公開されたら……楽しみにしていいですか?
同時に、「ひだまりスケッチ×ハニカム-ぷろだくしょんのーと」も発売になります。
こちらは原画集でもファンブックでもなく、設定資料集に近いものです。
本のケース自体がひだまり荘そのものになっていて、本も角丸加工、紙質やインクにもこだわったちょっと面白い、おもちゃ箱のような装丁の本になっています。
「ひだまりスケッチ」のあの特殊な色合いやカラードットの世界を、そのまま紙に収めた本、とでもいいましょうか。
アニメ制作会社は、たくさんの「原画」「設定」「背景」などの資産を持っています。
ファンとしてはそれを見たいけれども、難しいこと言われてもやっぱり困っちゃうわけで。
見て楽しいもの。触れて楽しいものが欲しい。
その点で「本」にこだわり続けるシャフトには、是非期待したいところです。
やっぱり手にとって、触れて、眺めて、棚に飾っておきたいんですよ。
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ KEY ANIMATION NOTE extra 始まりの物語 永遠の物語』
「ひだまりスケッチ×ハニカム-ぷろだくしょんのーと」
(たまごまご)