8月20日(土)に、新宿レッドクロスに強烈に重たい空気が吹き溜まりました。
過激なパフォーマンスが有名だったスターリンのパンクロッカー、遠藤ミチロウ

青森は北津軽出身怨歌フォーク&パンクの三上寛
そして、学生運動時代に一世を風靡した頭脳警察のドラマー石塚俊明
ああ、ふきだまったなあ。
これ全員1950年生まれつながり。つまり60~61歳です。
そこに日本マドンナが対バンという……。
93年生まれがいるバンドですから、実に43歳差。
遠藤ミチロウは言いました。
バックヤードはおじいちゃんと孫だ、と。
ですよねー。
 
まあ、こういうトーク自体は和やかになりましたが、……このメンツが揃うとライブハウスの空気が凍るわ。自分も含めたオーディエンスの身動き取れなさはちょっと稀な体験でした。
気づくと背筋が伸びてるんですよ全員。
最近の遠藤ミチロウの様子は中継や録画で見てはいましたよ。ギター一本で強烈な空気を作る彼の姿は。
前の日にはドミューン福島で「渋さ知らズオーケストラ」をバックに歌う遠藤ミチロウの姿がありました。現役なんてもんじゃないです。積極的に多数のライブを今もこなし続けています。

それでも、スターリンの強烈なライブの印象がどうしても強かったのですよ。豚の首振り回したりしていた80年代が。
だから生ミチロウは限界があるだろうと思いましたが、全然でしたね。なめてましたね。すいませんでした。
 
全く息をつかずに、歌い続け叫び続け語り続ける遠藤ミチロウ。

パッと見の攻撃性はありません。しかし歌詞と音からくる鬼気迫る凄みは何十倍にもふくれあがっています。
昔から遠藤ミチロウの特徴でもある、「日本語」そのものが楽器であり武器になる力強さは60歳の重みを持つことで何倍にもなりました。
聞いている側の神経を引っ張り込むのです。彼の歌詞は体の感覚の、一番不愉快な部分を掘り返します。人間の持つ本能の苦しみや業の部分。
性欲と肉体感覚のアンバランスさ。
若い時に歌ったそれも強烈ですが、60歳の彼が歌うともう聴衆の人生そのものをひっくり返すのです。
大げさに聞こえるでしょう? そう、言葉にすると大げさなんです。実際に目の前で歌われたら、そんな言葉がいかに意味を成さないかすぐわかると思います。
セックスセックスと叫びながら人間の心身を内側からひっくり返す「オデッセイ2011SEX」からスタート、ラストは「ノッキンオンヘヴンズドア」。呼吸するヒマすらありません。

今回は遠藤ミチロウ版「夢は夜ひらく」を聞くことができました。
スタイルはフォークですが、曲とスタイルはハードコア。円熟した余裕が有無を言わさぬパワーを客に叩きつけるのです。

三上寛はフォークの重鎮中の重鎮。先ほども出た「夢は夜ひらく」はご存知の方も多いと思います。
彼も61歳なのですが、明るいフォークなんてあるじゃなし、恨みと妬みと怨念のこもった歌を、額にしわ寄せて歌いあげます。
ミチロウもたいがいパッと見にオーラが尋常じゃないんですが、三上寛のまとっているオーラは異常です。歩いて近寄ってこられたらそれだけで逃げるか、思わず防御するかしそう。重ーい空気を常に身にまとっています。
特に東北青森の冷たい空気と、人生のあり方を生々しく歌詞に歌い上げるものですから、聞いていて普段使わないような筋肉がぎゅっと引き締まります。モッシュやダイブと全然別ベクトルの筋肉疲労起こします。
彼の歌も一応フォークではありますが、もうハードコアパンクとの境界線ないです。あちこちでライブはやっているので、今こそ一度は見ておくべきミュージシャン。

また三上寛の後ろでドラムを叩いていた頭脳警察の石塚俊明がまた、有無をいわさぬ圧倒感でしてねえ。テクニック的にはほぼフリージャズです。
三上寛の自由気ままでリズムを一切無視した呪詛のような歌にあわせたリズムを歌い上げます。刻むんじゃないです、ドラムで歌うのです。なんでピタリとあうの!? ってなりますよ。テクニックを極めたパンクスの到達地点みたいなライブでした。
この61歳二人が作る音は、シンプルであるが故に恐ろしい。
感覚的表現ですが、体の皮と肉をはいで神経剥きだしな状態で風が吹き付けるようなヒリヒリ感が伝わってきます。
そうさ。
本物だよ。本物の凄みだよ。これが。

その後に孫レベルに年の離れた日本マドンナ登場。三上寛はアイドルと言ってかわいがっている様子でした。
自分も日本マドンナはCDきっちり買ってる大ファンですが、こんだけ強烈なメンツのあとに演奏するのは未成年の少女たちにはすごいプレッシャーだろうなーなんて思ってました。
しかし、全くそんな重さを物ともせず、今の自分達の持つ訴えやパンク魂を爆発させていたのには、いやあ驚いた。強い。
確かに若くて、持っているものは幼い。だからこそ50年生まれのパンクス達以上に爆走する力がある。
ただ、MCには笑いました。
自分のやっているバンドはおじいちゃんには言えません、だって。だよね、「死ね!」とか言ってるもんね。
ミチロウさんがおじいちゃんだったらよかったのに、という日本マドンナ。パンキッシュなのにキュートだね。

最初この組み合わせを見たとき、パンクの世代交代ライブなのかと思いましたが違いました。
新旧ガチパンクの戦いでした。
特別にピックアップして語ることはしませんでしたが、東日本大震災にまつわるような内容の歌が意図的に織り込まれていました。遠藤ミチロウは「原発ブルース」も歌っています。
特に三上寛はそのへん強く意識していて、スレスレどころじゃない、おもいっきり切り込んだ主張を歌で語りました。
これはねえ……今こそ、今じゃないと見られないですよ。
もし今後遠藤ミチロウや三上寛のライブがあったら、ほんと見たほうがいいです。
現役どころじゃない、今もなおトップもトップを走る彼ら、凄みは増すばかりです。年齢的な衰えも今後来るかもしれませんが、節目な50年生まれチームの、震災や原発に対する強烈な主張の波を体に浴びるのを、心の底からおすすめします。

三上寛は9月2日宮城仙台パークスクエアの「独唱パンク」で見ることができます。このコメントがまたすごい。
「大津波は東北人差別に対する逆襲でありカウンターパンチ! 海に沈んだ名も無い民たちは、残る私等を後押しするために神々に変身した!!」
もう三上寛の領域に到達できる気が全くしません。ただただ身が引き締まるのみ。
遠藤ミチロウにいたってはライブやりすぎなんじゃないのってくらいやってます。
元気な60歳です。

えっ、これらのミュージシャンを全然知らない? 聞いたことはない?
いいのいいの。眼の前にして耳にしたら、そんだけで体強張るから。
(たまごまご)