大手コンビニエンスストアチェーン、ファミリーマートが1月28日から発売予定だった「ファミマプレミアム黒毛和牛入りハンバーグ弁当~フォアグラパテ添え」(690円)について、動物愛護団体からの抗議などを理由に発売中止とし、大きな話題になったことは記憶に新しい。

 キャビアやトリュフに並び、世界三大珍味の一つに挙げられるフォアグラ。

本来ならば高級フレンチ店などでしか味わうことのできない高価な食材だったが、ここ最近、コンビニのみならず、居酒屋やファミリーレストランのチェーンなどでも安価に提供されるようになってきている。

 例えばファミレス「ジョナサン」では昨年8月末から10月中旬までの期間中、フランス政府公認のフォアグラを使用したという「フレンチフォアグラ&ハンバーグ」(1,039円)や「フレンチフォアグラ&ポテト」(499円)を提供。また、これらが好評だったためか、12月にも「フォアグラ&フィレステーキ トリュフソース」(1,564円)と「フォアグラ&ハンバーグ トリュフソース」(1,144円)を数量限定で販売していた。

 さらに「魚民」や「笑笑」などの居酒屋チェーンを経営するモンテローザでも、昨年の6月から9月初旬まで、全国の店舗で「牛フィレステーキとフォアグラのロッシーニ トリュフソースがけ」(1,029円)を提供。

 このほかにも、高級フレンチ店「エルブランシュ」の姉妹店であるフォアグラバル「アジルジョーヌ」が昨年9月にオープン。こちらでは840円からフォアグラ料理を楽しむことができ、かなりリーズナブルといえる。

●価格低下の背景

 なぜフォアグラをメニューに取り入れる店がこんなにも増えたのだろうか。「アジルジョーヌ」のオーナーである小川智寛氏は次のように話す。

「本店のスペシャリテがフォアグラ料理ですので、『お客様にフォアグラをもっと身近に感じてほしい』という思いでフォアグラバルをオープンしました。当店はフランス産のフォアグラを使っていますがメニューが安価なのが特徴です。利幅を減らして姉妹店とバランスを取りながら運営しているので、この値段でもなんとかやっていけていますね。フォアグラバルにする前は(同じ場所で)別のお店を経営していたんですが、その時より席数が減ったにもかかわらず売り上げは1.5倍ほどに伸びています」

「アジルジョーヌ」では姉妹店の収益を見越して安価でフォアグラを提供しているようだが、居酒屋チェーンやファミリーレストランではどのように採算をとっているのだろうか。

「うちが扱うフォアグラは鴨自身に餌を噛ませて食べさせているので、飼育に4カ月ぐらいかかるのですが、おそらく安価なフォアグラは鴨の口に漏斗を挿し込んでピュレ状の餌を流し込んでいるのではないでしょうか。この方法だと1カ月程度でフォアグラができるそうです。手間がかからない分、安価で手に入れることができるのでしょう」(同)

 鴨はもともと渡り鳥なので体内に脂肪を蓄えやすく、ガバージュ(強制給餌)をすることで人工的に脂肪肝、すなわちフォアグラをつくることができる。伝統的な方法では人の手で一羽一羽に餌を食べさせるのだが、最近では機械を使ってガバージュするのでその分人件費がかからず、かつ早くフォアグラができるようだ。

●広がる中国産フォアグラ

 また、フォアグラを提供している別の飲食店のオーナーは、フォアグラが安価になった理由についてこう語る。

「最近だと東欧や中国でもフォアグラをつくっているみたいですね。中には品質のよい物もあるでしょうけど、“安かろう悪かろう”の可能性も高い。結婚式場の料理でもフォアグラは定番食材ですが、正直言ってあまり美味しくないケースが多く、そういう場合は中国産だったりするのだと思います。ただ、フォアグラは溶けやすいので扱いが難しい食材でしたが、最近では冷凍技術や輸送技術の発達によりだいぶ扱いやすくなってきています。それもフォアグラが安価になった理由のひとつでしょう」

 フォアグラが高級食材である所以のひとつは、生産や輸送に手間がかかることだ。だが、最近になって中国のような人件費の安い国でもフォアグラを生産するようになったことや、ガバージュや輸送が容易になったことなどが、フォアグラを安価で提供する飲食店が増えている理由のひとつにあるようだ。

 こうした動きに、消費者への“プチ贅沢”志向の浸透が加わり需要が増えることで、飲食店側としては大量仕入れも可能になるため、一般消費者が手の届く値段でフォアグラを提供できる流れができつつあるようだ。


 
もっとも、高級フレンチ店に出てくるフォアグラと、チェーン店などで安価に提供されるそれはまったくの“別物”だと考えたほうがいいのかもしれないが。
(文=千葉雄樹/A4studio)

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