トリングスが穏やかに、そして雄大に歌う美しいイントロ。≪逆さまに見てた 冷たい空 泣いて赤くなる 街を 見下ろした≫――冒頭から大切に言葉を伝えていくYUKIの歌声が聴こえ始めると、まるで大きな景色に包み込まれるような優しい気持ちになれる。秋の始まりに届けられるニュー・シングル「歓びの種」は、アルバム『joy』以降にリリースされた2枚のシングル「長い夢」、「ドラマチック」にあったキラキラとした迫力のあるサウンドや歌声とは、また違った表情で、生きていく豊かさと彼女らしい強さを発信しているのだ。メロディは情感いっぱいに繊細に、しかしサウンドはリズミカルなピアノを基調としたシンプルな仕上がりで、歌はメッセージをふんだんに乗せて進んでいく。
聴いているとAメロ、Bメロ、サビと丁寧に展開していき、2コーラス目で更なるクライマックスを感じさせる。アレンジもどんどん壮大さを増していくのだが、それだけじゃない。この曲のダイナミズムは、彼女が手がける歌詞に込められたメッセージそのものにある。例えば、この曲の2コーラス目にある≪間違いだらけと 判っていても 2人は進んでいく/つまりそれは 恐れずに 幸せになる 切符を 手にしている≫という部分は、彼女がずっと想い続けてきたことが更なる確信へと変わった瞬間、この曲は生まれたのではないだろうか。そんな熱を帯びた素晴らしいフレーズが、楽曲を更にエモーショナルにしている。
「歓びの種」を見落とさずに大切に育てることを、伸びやかなメロディの中で勇敢に歌っているYUKI。彼女が日本武道館で大きく花咲かせたアルバム『joy』の世界とは一体何だったのかを、あらためて受け止めることができる作品だ。"歓び"とは、何も大袈裟なことじゃない。普段の生活の中で見つけられる小さな心の動きであり、それを探すことができる人としての凛とした姿勢なのかもしれない。この曲を聴いていると、夕暮れの景色の中で柔らかな光を浴びているような気持ちになって、少しずつ心が温まっていく・・・・・・そうだ、日常の中で感じられる"歓び"はきっと、楽しいことばっかりじゃないからこそ見つけられるのかもしれないな。≪憧れの夢を 魔法の歌を 私は いつでも 観ていられるから≫という言葉をお守りに、YUKIはまた毎日を歩んでいく。そして私たちもまた。
気になるカップリングには、まるで映画のワンシーンを切り取ったようなイマジネーション豊かな世界観の「首輪」が収録されている。ソロ初期の「66db」などにも通じるアンニュイなトラックがゆったりと落とし込まれ、そこに幸福なメロディが広がっていくスロウ・ナンバー。久々の低音ヴォイスも聴きどころ。オーディエンスとのコミュニケーションもバッチリ封入された「AIR WAVE」のライヴ・バージョンと共に、YUKIのこれからの活動にも期待が膨らむ1枚に仕上がっている。そっと心に染みわたる歌を、めいっぱい楽しんでもらいたい。
(文/上野三樹)

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