『新約 太宰治』(講談社)著者:田中 和生Amazon |honto |その他の書店

◆小説に近い 魅力的な批評
いま、若い文芸批評家として活躍著しい田中和生の最新作。彼が文芸批評の領域にのめり込むきっかけとなった太宰治を論じている。


だが、ふつうの太宰論なら、何もこの欄で取り上げる必要はない。この本は文芸批評の皮をかぶっているけれど、じつはそうじゃない。

たとえば太宰治を読んでその小説に惚(ほ)れ込んだとしよう。いちばん最初に考えるのは、こんな小説を書いた人間に会ってみたいという願望であろう。その小説が好きで、作家のほとんどの小説を読んで、そこで彼に会って話をしてみたいと思うことはすごく自然なことじゃないかと思う。

でも、太宰はもうこの世にいない。会えない。でも会いたい。会えないなら、太宰を自分の本の中で召喚すればいいじゃん。田中はそう考えた。

だからこの批評には太宰治が二度出てくる。本当にさりげなく。
特に二度目の登場シーンが、私は好きだ。田中が、太宰の郷里で小学校の運動会を眺めていると、強風になぶられて、太宰が現れる……。型破りな文芸批評は、かぎりなく小説に近い。こんな切なくなる批評文は、ちょっとない。魅力的な批評の誕生である。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
日本経済新聞 2006年8月2日

【書誌情報】
新約 太宰治著者:田中 和生
出版社:講談社
装丁:単行本(256ページ)
発売日:2006-07-15
ISBN-10:406213408X
ISBN-13:978-4062134088
編集部おすすめ