◆戦争の日常緻密に淡々と
昭和18年。ビルマ戦線に宣撫班(せんぶはん)として同行した、若き新聞記者・美濃部。
緊迫した敵との遭遇。密偵や買収した現地の人々とのやりとり。そんななか、イギリス人将校・コーンウェル中尉と彼の部下のインド兵を捕虜にする。
コーンウェル中尉は自身の置かれた環境に抗(あらが)うかのように、終始自信に満ちた態度を崩さない。彼の態度のウラには何があるのか。軍隊に同行し状況を粉飾しながら「書く」という行為をめぐって、美濃部とコーンウェルは意見を戦わせる。
小説はそうした人間関係を折り目正しい文体で正確に描き出す。余計な解釈や過剰な演出はない。これは古処戦争文学の特徴だ。読者を必要以上に刺激しようとする意志がない。じつに冷静な書き方は最後まで遵守(じゅんしゅ)される。
じつは最後にどんでん返しもある。そのドラマが感動的に読めるとすれば、おそらく戦争の日常が淡々と叙述されているからだと思う。戦争を緻密に描く筆致に感服。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。
【初出メディア】
日本経済新聞 2011年12月21日
【書誌情報】
ニンジアンエ著者:古処 誠二
出版社:集英社
装丁:単行本(296ページ)
発売日:2011-11-25
ISBN-10:4087714292
ISBN-13:978-4087714296