『象が踏んでも - 回送電車IV』(中央公論新社)著者:堀江 敏幸Amazon |honto |その他の書店

◆記憶を語り居場所に収まる文章
堀江敏幸氏のエッセイには濃淡がある。フィクションとして書かれ、小説の体裁をして私たち読者の前にすっと差し出される書物は、いわばそうした濃淡を消して虚構のたたずまいを崩そうとしないが、エッセイには現実が否(いや)応無く流れ込んで、その痕跡が濃い部分と淡い部分があるのだ。


このエッセイ集にも多様な文章が集められている。発表された媒体も、文章の長さもバラバラだが、堀江氏の手にかかると、それが最初からそう意図してあったかのように、文章たちはピタリと自分の居場所に収まっている。見事なものである。

むろん本をめぐるエッセイが多い。シモーヌ・ヴェイユ、フランソワ・モーリヤック、ジョルジュ・シムノン、フィリップ・ソレルスといった西洋の作家たちだけではなく、長谷川四郎のような作家への言及が目を引く。

ただ、この本のなかで個人的に一番心に残ったのは、堀江氏の勤める大学の、あるロシア文学者を悼む文章だった。在りし日の姿を、これほど鮮明に、かつ愛情を込めて活写できる作家はそうそういない。

記憶を語る文章の巧(うま)さにおいて、堀江敏幸は際立っている。あらためてそう感じた。

【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。
最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。

【初出メディア】
毎日新聞 2011年6月8日

【書誌情報】
象が踏んでも - 回送電車IV著者:堀江 敏幸
出版社:中央公論新社
装丁:文庫(253ページ)
発売日:2014-10-23
ISBN-10:4122060257
ISBN-13:978-4122060258
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