御三家の1つである武蔵中高を卒業後、医学部へ——。医師の阿部智史さんの経歴は一見、エリート街道まっしぐらに思えます。
しかし高校卒業後、彼はファミリーレストランで深夜バイトをしながら、1日のうち18時間もゲームに打ち込む「ゲーム依存状態」のフリーター生活を送っていました。

そんな状態から一念発起し、わずか1年ほどの受験勉強で医学部合格を勝ち取った阿部さん。その実体験と勉強法は、2026年7月に出版された『ゲームしながら受験で勝つ!─医師が教える子どもが自ら学び出すセルフコントロール力─』(新潮社)にもまとめられています。

どん底のフリーター生活から、いかにして「ゲーム脳」を受験勉強にスライドさせて逆転したのか。阿部さんに当時のお話を伺いました。

■「夢がない」名門・武蔵の神童を襲ったモヤモヤ
名門・武蔵から「1日18時間ゲーム漬け」の依存状態へ。神童が2chとゲーム脳でつかんだ「医学部一発合格」の裏側
武蔵中学校に入学した当時の写真(写真提供:阿部智史)
中学生までは、部活動・勉強・ゲームをバランスよく楽しんでいたという阿部さん。しかし高1の頃、将来の夢を描けないことに強い苦痛を感じ、立ち止まってしまいます。成績はよい方で親の期待も高いものの、言葉にしがたいモヤモヤした気持ちが渦巻いていました。

そうした気持ちに比例するように、ゲームにのめり込む時間が増加。休み時間のたびに友達と対戦し、帰宅後もオンラインゲームの世界に浸る日々が始まりました。

「特にひどかったのは高2の終わりです。ネット上で対人戦を楽しめる『ボンバーマンオンライン』というゲームにハマって、全く勉強に身が入らなくなりました」

両親からは「そんな様子で、将来はどうするつもりだ」と叱責される場面が増え、衝突は激化。
顔を合わせれば叱られる日々が続き、しまいには、ゲームに必要なマウスやLANケーブルを親に隠されるようになりました。それでもゲームがしたい阿部さんは、隠されたパーツを夜中に探し回ったと言います。

「そういう時に親と出くわすと、さらに激しく言い争いになりました。『うるさい! 放っておいてくれ!』と反発し、部屋にこもることが増えていきましたね」

■LANケーブルを隠す親。「勉強する」とだまし一人暮らしへ
名門・武蔵から「1日18時間ゲーム漬け」の依存状態へ。神童が2chとゲーム脳でつかんだ「医学部一発合格」の裏側
武蔵高校卒業時の写真(写真提供:阿部智史)
「こんな家にいられるか」と限界を感じた阿部さんは、「通学時間(約2時間)がもったいない。一人暮らしをすれば、もっと勉強する時間が取れる」と両親をプレゼンテーションで説得。学校近くの学生寮で一人暮らしを始めます。

けれど、勉強に身が入りません。そのうち、部屋は同じようにゲーム好きな仲間たちのたまり場となり、徹夜でゲームに没頭する日々に。

「『大学受験は、来年頑張ればいい』という甘い考えが頭をもたげ、センター試験を受けたところで早々に受験をやめました」

卒業後は「浪人して予備校へ通う」と偽って憧れだった池袋近くへ転居。しかし、春になっても予備校の申し込みには行かず、新居には勉強机ではなくパソコン机を設置し、両親に黙ってファミリーレストランの深夜アルバイトを始めたのです。

「働いて生活していれば文句は言われないだろうという、やけくそな気持ちでした」

そうして始めたアルバイトは、時給のいい深夜帯がメイン。
アルバイトのある日は、10時に起床し、22時の勤務時間まで12時間ほどゲーム。休みの日は、18時間ほどゲームをやり続けました。

「睡眠は4時間取れればよい方で、残りの時間は全てゲームにつぎ込みました。食事はファミレスの従業員割引か、100均のパスタに市販ソースをかけたもの。痩せていきましたね」

そんな生活も、2カ月ほどで両親にバレてしまいました。親からの仕送りは止まりましたが、そのまま一人暮らしを続行。しばらくすると、家族と唯一つながっていた携帯電話まで解約しました。

「両親は、仕送りを止めれば、帰ってくるだろうと思っていたんじゃないですか。携帯を解約してからは、心配した妹が様子を見に来るようになりました。当時は気が付きませんでしたけど、母親は悩み過ぎて、かなり体重が減ったらしいです。今となっては本当に申し訳なく思います」

■「自分ヤバい……」神童の目を覚まさせたゲームの配信終了
そんな自堕落な生活を送っていた3年目のある日、高校時代から続けてきた「ボンバーマンオンライン」がサービス終了を発表します。

居場所だったゲームが消えたことで、「今の自分って、まずいタイプのフリーターじゃん」と一気に現実に引き戻されました。
同時に、ゲーム内で知り合った年上の友人からも「フリーターを続けるより、勉強してもっといい道を歩め」と背中を押されます。

阿部さんは、インターネット掲示板「2ちゃんねる(2ch)」に「このままでいいのか?」というスレッドを立て、現状を吐露。そこに寄せられた見知らぬ人々からの励ましをきっかけに、もう一度受験に向き合う覚悟を決めました。

両親に頭を下げて予備校へ通い始めた阿部さんは、ここから「ゲーマー的な発想」を受験勉強にハックし始めます。

■2ちゃんねるを監視役に。「ゲーム脳」でつかんだ偏差値70超
阿部さんが最初に取り組んだのは、勉強の「ゲーム化」でした。

「勉強を始めた当初は計画を立てずにがむしゃらに取り組んだため、得意科目ばかり進んで苦手科目が滞りました。そこで対策として、毎日少しずつ全教科を勉強し、何分勉強したかをノートに記録。『ログインボーナスを得る』ようなイメージで進めたんです。やらない科目がある=キャラが成長できない、というイメージで進めました」

さらに、モチベーション維持のために2ちゃんねるを活用しました。「勉強時間16h、運動時間0.5h、無駄にした時間0.5h」と毎日の成果と反省をスレッドに投稿。見ている人々に監視してもらうことで、途中で逃げられない環境を作ったのです。


「そのうち、『毎日ROMってるよ』『相変わらず頑張ってるね。自分自身が決めた道、しっかり前を見て下さい。応援してます』と認めてもらえる瞬間がありました。受験が近づくと、スレッドには一緒に頑張る仲間も登場し、ドラゴンクエストの『ルイーダの酒場』のように仲間集めの場所としても機能していましたね」

睡眠以外の全てを勉強に捧げ、最低でも1日12時間の学習量をキープ。再受験を決めた当初は偏差値50未満まで落ち込んでいた成績は、最終的に偏差値70を超えるまでに急上昇し、見事に医学部合格を果たしました。

「研修医になれた時、『迷惑をかけてごめん』と両親に声をかけたら、涙を流していました。苦労をかけたんだと、今ならよく分かります。ゲームは逃避にも使えますが、その熱中するパワーは現実を成長させるためにも使えるんです」
阿部智史さん プロフィール
1987年生まれ。医師(家庭医療専門医・指導医)。医療法人救友会理事長、東海大学医学部付属病院総合内科客員講師。湘南伊勢原クリニック院長。私立武蔵中高から東海大学医学部へ進学。
ゲーム依存を経験したことから、2021年に医師仲間とDr.GAMESを設立し、診療の傍らゲームで悩む親子やゲーマーのサポートを行う。現在も熱心なゲーマーで、複数のオンラインゲームで全国ランキング1位の成績を残す。

この記事の執筆者: 結井ゆき江
フリーランスの編集者・ライター。中学受験雑誌の編集者として勤務した後に独立。小学校で発達障害グレーゾーンの児童をサポートした経験から、教育分野を中心にライターとして活動する。

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