自身の壮絶なゲーム依存体験と、医師として多くの子どもや保護者を診てきた経験から、阿部さんは「ゲームとの付き合い方次第で、子どものその後の成長は大きく変わる」と語ります。
子どもがゲームにハマったとき、親はどのように介入すべきなのか。『ゲームしながら受験で勝つ!─医師が教える子どもが自ら学び出すセルフコントロール力─』(新潮社)の著書もある阿部さんに、ゲームへの「ネガティブなハマり方」と「ポジティブなハマり方」の違いや、現場で効果のあった親の関わり方について伺いました。
■「勝つために分析する子」と「ダラダラ続ける子」
阿部さんによると、子どものゲームとの向き合い方は大きく2つのタイプに分けられると言います。
1つ目は、ランキング上位を目指して「どうすれば他のプレーヤーに勝てるか」を常に分析しながら遊ぶタイプ。
「このタイプは、勉強でも力を発揮しやすい印象があります。上位のランキングに入るために、集中力と目標達成力を育んでいる。ゲームに対して、前向きでよい熱中をしていると言えるでしょう」
一方で、ゲームがうまくないのにだらだら続けてしまうタイプは、現実から逃避するために利用している可能性が高いそう。そういう場合には、なぜゲームに逃避しているのか、原因を一緒に探ることが大切です。
「学校や家庭での悩みが逃避の原因となっている場合があります。また、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった病気が隠れているケースも。生きにくさを抱えていてゲームが唯一の逃げ場になっている場合もあります」
■子どもがゲームをやめられない医学的理由
なぜ人はゲームにハマるのでしょうか。阿部さんは、「子どもに問題があってゲームにはまってしまうのではなく、ゲームはそもそもハマりやすいようにできている」と言います。
「目標を達成したとき、ドーパミンが快楽や達成感を脳にもたらします。これが、『もっとやりたい』『楽しい』という子どもの気持ちを駆り立てるのです」
ゲームに逃避している子どもは、このドーパミンで得られる刺激に取りつかれている状態。いきなりゲームだけを取り上げると逃げ場を失い、かえって状況が悪化してしまうことがあります。
「ゲームが子どもにとってプラスの存在なのか、それともマイナスの存在になっているのかを見極めること。その上で、ゲームに対する情熱をほかのことに向けられるよう少しずつフォローするのがいいと思います」
■よかれと思ってやりがちな「悪い対応」3パターン
ゲーム関連の問題行動に対し、保護者がよかれと思ってやりがちな「悪い対応」として、阿部さんは次の3パターンを挙げます。
▼1.ゲーム機の没収・物理的な遮断「一時的にゲームを止めさせられますが、子どもには親への不信感と強い反発心が残ります。結果として、隠れてこっそりプレイするなど、より悪質な状況を生み出す原因になります」
▼2.「ゲームは時間の無駄」という一方的な説教「『ゲームは悪だ』『時間の無駄だ』と決めつけて説教しても、子どもは聞く耳を持ちません。『自分のことを理解しようとしてくれない』と心の距離が広がるだけです」
▼3.感情的に怒る・日によって言うことが変わる「感情的に怒ると、子どもは『怒られたこと』に意識が向いてしまい、自分の何が問題だったのかを冷静に理解できません。また、日によって怒る基準が変わったり親の言動がブレたりすると、子どもからの信頼を完全に失ってしまいます」
■ゲーム内の「達成感」をリアルの世界へスライドさせる
では、ゲームに熱中する子どもを前にしたとき、親が取るべき行動は何でしょうか。
「まず大事なのは、子どもの行動を理解するために彼らの声に耳を傾け、信頼を築くことです。『なぜ課金するのか』『暴言を吐くのはどんなときか』を子ども自身に問い掛けるんです」
暴言や課金は、単なる「悪い癖」ではなく、ストレスや不安、自己肯定感の低さ、脳の報酬系への過敏反応など、心理的な原因があることがほとんど。まずは親がこれを理解して、原因をどう改善していくかを考える必要があります。
ゲーム内で承認欲求や達成感を得ている場合は、現実世界で同じような経験をさせることも有効です。スポーツや趣味、習い事など、ゲーム以外の場所で自己肯定感を高められる機会を作ることが改善につながります。
「ゲームに関しては、親が一方的にルールを押し付けるのではなく、子ども自身に『どうしたら改善できるか』を考えさせ、親子で合意したルールを作ることが大切です。課金であれば『月に○円までなら相談して決める』と共有する。子どもが主体的に関わることで、実行率が大幅に上がります」
ルールは定期的に親子で振り返り、守れていたら褒めて、困ったことがあったら一緒に解決していくのが理想だといいます。
■不登校の中1が「ギルドリーダー」から学級委員へ復活
さらに阿部さんは、親のアプローチを変えたことで子どもの才能が開花した2つの実例を紹介してくれました(※個人情報保護のため、詳細情報を変更しています)。
▼事例1. オンラインゲームの「ギルドリーダー」だった不登校の中学生クラスになじめず不登校になった中1の男の子。しかし彼は、オンラインゲーム内のチーム(ギルド)でリーダーとして大人数をまとめていました。
それに気付いた阿部さんが親に説明し、「ゲームを否定するのではなく、現実社会でも生かせるようにサポートしよう」とフォローの仕方を変えることに。さらに「ゲーム以外の場所でもチームを作ってみたら?」と地域の課外活動を勧めました。
すると本人が現実社会とオンラインのコミュニケーションに大きな差がないことに気が付き、中2から復学。友人も増え、自らクラスのイベント委員に立候補するまでになったそう。
▼事例2. マインクラフトでプログラミング思考を育んだ高校生ゲーム「マインクラフト」に夢中だった高1の女の子。阿部さんが「この子はプログラミング的思考の能力が非常に高い」と伝えたことで、親が考えを改めました。
子どもが作っている作品を「一緒に見る」「教えてもらう」スタンスに変えたところ、子どもが「もっと複雑な建築をしたい」と希望。週末にプログラミング教室へ通うようになり、ゲーム以外の創造的な場に参加するようになりました。現在は情報系の大学進学を目指して前向きに勉強しています。
■「何が面白いの?」から始まる、親子のルール作り
最後に、阿部さんはゲームと向き合う保護者へこう呼び掛けます。
「ゲームをしない親御さんは、『どうしてうちの子はゲームだけ何時間も集中できるんだろう』と不安になると思います。でも、その不安を和らげるには、まずゲームを知ることです。ぜひ一度、子どもが遊んでいるゲームを体験してみてください。
逆に、ゲーム経験のある親御さんも安心はできません。子どもが遊ぶゲームはどんどん変わっています。
阿部智史さん プロフィール
1987年生まれ。医師(家庭医療専門医・指導医)。医療法人救友会理事長、東海大学医学部付属病院総合内科客員講師。湘南伊勢原クリニック院長。私立武蔵中高から東海大学医学部へ進学。ゲーム依存を経験したことから、2021年に医師仲間とDr.GAMESを設立し、診療の傍らゲームで悩む親子やゲーマーのサポートを行う。現在も熱心なゲーマーで、複数のオンラインゲームで全国ランキング1位の成績を残す。
この記事の執筆者: 結井ゆき江
フリーランスの編集者・ライター。中学受験雑誌の編集者として勤務した後に独立。小学校で発達障害グレーゾーンの児童をサポートした経験から、教育分野を中心にライターとして活動する。









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