『九十歳。何がめでたい』の作家、佐藤愛子さんが102歳で亡くなってから3ヶ月。
男性の平均寿命81歳に対し、女性は87歳(世界一)。女は6歳長く生きるからか、父親の死後、実家でひとり暮らしをする母親が目立つ時代だ。いつか同居しなくちゃなと思っている中年、若者も多いだろう。
このシチュエーションでの3つの問題を提示したい(3つ目がメインです)。
◾️同居のもめごと
『憤怒の人』は参考になる(亡くなられる前に読んでいました)。本には母、佐藤愛子さんとの心温まるエピソードもふんだんにあるが、わがままで自己中な老いた母親の描写もハンパない。
「あんた、草むしりくらいやりなさいよ」とか「この窓の汚れ見て、よく平気でいられるね」なんて小言は日々当たり前。人前でも平気で怒鳴りつけてきたという。
勤めては辞めたお手伝いさんは数知れず、佐藤愛子の家で働くことに夢を持って来た人はたいてい2、3ヶ月すると「響子さん、大変だね、よくがんばってるよ」と不平を口にして、長続きしないという。
怒りだすと止まらず、別荘に工務店が持ってきたテーブルが傾いていたので腹を立て、工務店の人が脚の下に板を差し込んだことにさらに腹を立て、知り合いに電話で鬱憤を晴らし、テーブルを寄贈すると言われて現場を見に来た役場の人にも工務店への怒りをぶつけ、もちろん娘さんにもブツブツ言い、翌日には工務店宛に怒りの手紙を書いたという。さらに娘に読ませて、清書させた(四百字詰め四枚)。
たかが口が悪いだけでは済まない。人間関係のストレスの素は言葉だ。本を読むと「いやーすげえな、でもうちのオフクロと似てるかも」と思えるかもしれない(ぜひ読んでいただきたい)。ここまでくると実家にいる老いた母親は将軍みたいなもんだ。
私の母親も同居前には電話で1時間喋るのは当たり前で、私が帰郷した時は80代なのに衰え知らずで自慢話と愚痴がループして、なんと私は同居4ヶ月で胃炎になった(その後は食事は別、互いに干渉せず滅多に顔を合わせなくなり、今は同居がスムーズに)。
佐藤愛子さんには及ばなくても、老母のことで似た悩みを持つ人は多いだろう。つまり、親が長生きだと(これ自体は結構なことだが)同居を長く送ることになる場合が多い。今や100歳まで元気で口やかましい時代だから覚悟が必要だ。
◾️介護のお金
介護にはもちろん段階がある。佐藤愛子さんは100歳近くになって認知症が出たようだ。
これは佐藤さんの話とは別なのだが、著名人の介護の苦労を子どもか妻が記した本には、お金のことがほとんど書かれていない。介護にどのくらいお金をかけたか、下世話な話だが亡くなった(亡くなりそうな)著名人から貰える遺産はいくらなのか、を書いた人はほぼいないだろう。
著名人は一般的に見て成功者だ。「施設探しに難航した」と苦労が書かれてあっても、「これなら父も不自由ないだろう」と高級な施設に入所できた例が見られる。
介護は綺麗事じゃ済まない。金持ちとそうでない人とは大きな違いがある。知人の話だが、母親が「あの医者ヤダ、あそこの施設はヤダ」の人間嫌いのわがままで、知人は在宅介護のために仕事を辞めてしまい、預金が底を尽きる不安に悩みながら終わりのない同居生活をしているという。実際こんな話は多いのだろう。老いていく子どもが親の介護を10年、20年やる時代なのだから、介護社会のシステム含め真剣に考え直さないといけない。
◾️年齢差が少ないと、続けて死ぬ!?
以上2つは今までも語られがちな問題で、ここからが私が言いたいメインだ。
「あの佐藤愛子さんも認知症だったのか」と私は意外に思ったが、考えてみたら102歳! そのわずか数年前から認知機能が悪いなんて当たり前ではないか。
娘の響子さんは66歳だが、仮に母との年齢差が25歳の場合、77歳となる。子どものほうも認知症が始まってもおかしくない。
最近思うのだが、これが「母親と息子」の組み合わせなら、死亡間隔が短い時代になるんじゃないか?
冒頭で書いた男と女の平均寿命差は6歳。私の世代だと母親は20代前半で出産した方も多いので、仮に22歳差で母親が平均寿命より10年長い97歳まで生きたとして、息子は75歳だから、平均ではあと6年の命。25歳差で母が100歳まで生きた場合も同じ6年後の死。
これはあながち大げさではない。長生き世代の親の子どもが長生きとは限らない。寿命の遺伝がどの程度かは様々な研究がされているが、遺伝以外にもちろん性別、そして本人の生活習慣が大きく影響するのは当然だ。ストレス過多、睡眠不良、ジャンクな食生活を送ってきて、それが私から下の世代だと「失われた◯年」でお金がないし、年金も乏しく、貯えがなく、そして同居介護が長くなって疲弊したなら、親の死亡後にどれだけ生きられるかわかったもんじゃない。
一時期、老いた親が無職の子どもを支える「80・50」問題が取り沙汰され、「90・60」へ発展したが、今は母親と息子がそれほど間隔を空けずに死ぬという意味の「100女・75男」問題が起きるかもしれない。母と息子のワンツーフィニッシュという事態だ。
1975年、日本の男女とも平均寿命が70歳を超えた(男71、女76)。子どもの私は、テレビかラジオで落語家がそのことに触れ「日本人もずいぶんと長生きになったもんでございます」と話すのを聴いた。それから50年後、70歳で死ぬのは早死にと言われる。老老介護と言われ始めた頃は60代が80代を介護する意味合いだったが、今や70代が90~100歳の親を介護する。そんな時代をどう生きるか、真剣に考える時期だろう。
◯追記のつぶやき
そもそも親子揃って高齢者になるほどの長生きが良いことか、私は大いに疑問だ。「人生100年、長生きしよう!」とマスメディアは高齢者に物を売るためにアナウンスするが、「人はどれだけ生きたかではなく、どう生きたか」だろう。長く生きることは、人によってはつらいことだ。
文:松野大介
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